言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

あなたはわたしの光

「黎明の王」感想。磯野大さんが主演だったので観に行った。ネタバレしています。やたら長い。


佐藤弘樹さん演じるヴラドと鵜飼主水さん演じるヴィンツェルのヴァンパイア主従コンビが毎回いろんな事件に出会う的なシリーズらしく、前作を見てるか否かで印象は違いそうだけど、別に観てなかったら話が全然わからないというわけではない。わたしは1回目観終わってから調べてシリーズだと知ったくらいだし…。


今作は磯野さん演じるヴァンパイア研究者のジェリコとその助手のニコラが山でヴァンパイアに出会うところから始まる。変死事件が相次ぎ、黒死病の流行も相まって人が減り続ける城下町の人々は、砦の城には怪物が住むと噂している。ニコラが失踪し城に住むヴァンパイアに攫われたと考えたジェリコは、町の人々と共に城を訪れる道中でヴァンパイアハンターのビクターと出会う。城主のヴラドと従者たちは予想外に彼らを歓待するがニコラは見つからない。そして町長のミロサフが何者かに殺され…。


この話は明確に信頼できない語り手で、実はヴラドはこの城の城主ではなく、城主の不在時に城を訪れたことでなりゆきで成り代わっていた。そして本当の城主かつ人々を襲ったヴァンパイアはジェリコであるということが後半で判明する。これ、多分シリーズを観ている人だったらヴラドが犯人な訳がないということが最初からわかるのかもしれないんだけど、初見だとわからないので、ヴァンパイアを倒したぞ!→完全暗転→ウワーッ!→ラドゥロヴィッチが手首だけになってる、という流れが衝撃的でとてもよかった。

とにかく初見の前半はキャラクターたちが何を目的として動いているのかさっぱり共感できず、城の住人は何がしたいの?街の人々も簡単に心開きすぎじゃない?変死事件の件が何も解決してないが?それで町に帰ってどうするんだ?城の住人も城主殺されてリアクションなし?という疑問符がすごかったのだが、この噛み合わなさ自体が伏線だったということが後半でわかり、大半は解決した。その上で2回目を観ると、前半から後半につながる細かい演技がなされていることに気づくので(あと上に書いたようなツッコミも生じないので)正直2回目の方がおもしろい!こういうタイプのオリジナル舞台って観客の大半が役者のオタクなので多ステする客が多いと思うんだけど、それを逆手に取っている感があって(これはメタ邪推だが)良い。


作中で歌が結構あるが、観ていて歌うことに違和感がないシーンとそうでないシーン(唐突な歌!と感じる)があるのは気になった。たとえばヴィンツェルが崩れた城に取り残されたところにヴラドが助けに来るシーンなんかは歌で表現するのがすごくいいと思ったんですよね。ジェリコたちが城にやってきたシーンで突然オープニングナンバー?の全員歌唱が入るんだけど、これは歌うにしてももうちょっと上手い導入がないか?と思った。感情が乗ってない歌に違和感があるのかも。しかしこの唐突…と思ったオープニングナンバーがラストでもう一度歌われ、そこで印象がまるっきり変わるのはすごいと思った。リプライズ(?)がうまい。あと曲が頭に残る。地獄まで道連れの歌とか。

登場人物、街の4人は役職もあって人格がよくわかるのに対し、城の従者ズが全然わかんなくてちょっともったいなく感じた。他のキャラに比べて突然マンガ的なキャラなせいもあるのかも。せっかく4人にするなら、それぞれコミュニケーションとるシーンとかオフ演技以外で少しでもあったら、もう少し解像度上がったのでは…と思ったりした。


この作品って関係性が対比で描かれるところが多く、共に不死の主従として地獄の果てまで進むヴラドとヴィンツェルに対し、ニコラを死なせたくないあまり修羅の道に足を踏み入れてしまったけど結局ニコラを失うことになるジェリコ、死者である兄・アイヴァンの幻影に取り憑かれているビクターに対し、従者たちの幻影に「消えろ」と告げるジェリコ、それぞれの死との向き合い方がある。そしてラスト、ジェリコはヴラドの「私たちはただの人間だ」というセリフを否定し、自ら人でないことを選択する。このシーンで人を殺しまくるジェリコの美しい異形みがすごくて、磯野さんがキャスティングされた理由の一端を見たような気がした、まず舞台上でめちゃくちゃデカいことによる異物感があるんだよな。


好きだったのは高岡さんのラドゥロヴィッチ、田中さんのアイヴァン、輝山さんのビクター、鵜飼さんのヴィンツェル。

ラドゥロヴィッチは街の人々の中でもいちばん明確に人格や意思が見えるのがよかった。高岡さん風強で観たことあって2回目なんだけど、日替わりとかアドリブ含めて反射神経いいな〜と思う場面が多い。死に方かわいそうすぎる。ウラジミールにキレながらも助けてあげてるのがかわいい。すぐ発砲するツンデレ

ビクターとアイヴァンは、まず設定が好き…城に着いて部屋に案内されたあと、従者ズがヴラドにビクターのことを「独り言が多くどこか妙です」って報告するシーンで、アイヴァンがビクター以外に見えないことに気づき、振り返るとそこまで誰もアイヴァンと会話してないし声も聞こえてないんですよね。目も合わせてないらしい。田中さんは稽古場でビクター以外と目が合うとうわー目が合った!って言われてたらしい。かわいそう。ビクター、あのタイプのキャラだとかわいさを前に出す演じ方をする人もいそうだと思うのだが、全然かわいくないのがよかった。強い。個人的にはアイヴァンって完全にビクターの幻覚じゃないのでは?という気もしていて、というのはアイヴァンだけがジェリコに対して疑いの目をむけているように感じる瞬間がいくつかあったんですよね。本当にいたのかもしれない。

ヴィンツェルは…もう…オタクの女は全員好きだろ!!と思わずバカデカ主語になってしまった。こういう役って中途半端に演じられたらハイハイってなってしまいそうなところがあるけど、完全ノックアウトまで性癖をぶん殴られた。鵜飼主水さんすごいですね。絶対に調べないぞ(沼に落ちたくないので…)角度の付け方から毎秒完璧、とんでもねえ色気。ヴラドとヴィンツェルが城にやってきて従者ズに襲われるシーン、センターで頬杖ついて「歓迎されているようですね?」みたいなこと言うのが好きすぎる。

そして終盤の展開の話なんですけど、その前のターンでジェリコにニコラへ「お前が生きていてくれることがわたしの光だ」って言わせた上でニコラが殺されてて、それで城が倒壊して不死の肉体で闇に閉じ込められたヴィンツェルのところにヴラドが光そのものとして助けに来るの、すごくない?対比えぐ!!と思った。人の心がない。それでいうと前半の晩餐会シーンの曲中、レオネルがダンスなんて踊れないであろう狩人のラドゥロヴィッチの手をとって踊り、後半の惨殺晩餐会シーンの同じ歌詞で、手首を落とされたラドゥロヴィッチの断面を掴むのも本当に最悪ですごい。


これは蛇足なんですが、こういう完全なファンタジーを小劇場(じゃないのかもしれないけどそこまで大きくない規模)でやるのって大変そう〜と思っていて、だって現代劇と違って絶対セットも衣装もちゃんと作らないといけないし、観客側も2.5やグラミュでバチバチに金かかってる作品を見てるから、正直安っぽければわかるじゃん。衣装がみんな素敵でよかった。個人的に正体明かした後のジェリコが首に十字架かけてるのキツ…ってなった。神は救ってくれなかったのに!ストーリー的にも、わたしは性格が悪いので初回の前半の時点では勝手に、あーこういうやつか…みたいな納得をしちゃってたんだけど、後半でそれを全然上回る激重感情、人間の人間へのクソデカ執着、救いのない展開を見せられたので、おもしろい!という気持ちになった。観れて良かったし次作も観たい。