言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

衝突が生む変化の輝き

ムシラセ「つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ!」の2本立て再演。

2021年の初演に山崎丸光さんが出ていたので観に行き、ムシラセに出会った。衝撃的な面白さだった。わたしは感受性に乏しいので普段舞台を観てあまり泣かないのですが、初演も泣いたし、そしてストーリーを知っている再演でもやっぱり泣いた。


初演の感想はこちら。(あらすじも)

e-me-me.hatenablog.com

初演を観た上での再演って、どうしても前回の記憶があるのでゼロからの感想ではないし、比較した書き方になるところはあるけど、どちらが良いという意図はまったくないです。それぞれのつやファン。

 

「つやつやのやつ」

辻さん演じる津田くんは続投で、相方が阿久井くん(佐藤新太さん)に変更。ネタ書かないボケなどの設定は変わってないんだけど、演者が変わったことでコンビの印象は変化しており、阿久井くんはやんちゃみが増した気がした。わがままな弟っぽいというか。吉光はどちらかといえばダメなお兄ちゃんぽかったので。あと吉光が書いてたミリオタネタは格闘技ネタに変わってる。

つやつやに関しては、とにかく津田くんが最初から最後までキレッキレで驚いた。辻さんは観るたびに素敵な俳優さんだなあとは思っていたのですが、今回の津田くんはさらにそれを超えて、ずっと見ていたい発光するような魅力があった。あとラストにはけるとき阿久井くんを何度もチラ見するのとか、初演よりかわいさが倍プッシュになっている気がする。津田くんが魅力的なほど、ファンファンでのゆかりの熱い推し語りにも説得力が生まれると思うので、とても素敵。初演もぐっときていたけど、今回は解散しようという阿久井くんを津田くんが止めるシーン、泣きそうになりながら喋る「じゃあ死ねば?」からの台詞で心震わされすぎて泣いちゃった。

有薗さんの堂夏師匠、初演の山森さん演じるおすし師匠が食えないジジイという印象の飄々としたキャラだったのに対し、短気な江戸っ子べらんめえ系で、それぞれの良さがある。カブキ姐さんと師匠のシーンが増えていて、いかにも悪友腐れ縁という感じでほほえましかった。カブキ姐さんは初演で度肝を抜かれてからずっと好き。菊池美里さん本当にすごい。そして結局お通夜でネタやって売れてるんですよね(1年後のファンファン〜ではテレビめっちゃ出てるっぽいので)そういう幸せな伏線回収があってニコニコする。

ちなみにキャス変で役名が変わった人(阿久井くん、堂夏師匠、志乃、山ちゃん)と変わっていない人(ウィスパー、ゆかり)がいるんだけど、これはなぜなのか気になってる。

→ウィスパーは「髙木」から「高木」なので実は変わってた。ゆかりは「ギャルの魂はひとつだから」とのことです。大変納得。

 

「ファンファンファンファーレ!」

この2本立ては、頭にチカがひとりで出てきてサツキと通話しながら、ハルくんの死を知るシーンで始まる。この後起こることを知って見ているので、冒頭の幸せいっぱいなチカからもう泣けてしまって大変だった。

初演のときの自分は、チカについては自分とタイプが違うオタクだなという感想で、共感こそあれそこまで強くは思い入れていなかったんだけど、今回はなぜだかわからないがもうずっとチカを見ていた。つらいのに目が離せない。

志乃がお笑いについて語る言葉と、チカがハルくんについて語る言葉って、すごく似てるんですよね。ふたりともおそらく過干渉な家庭に問題を抱え現実がつらくて、その救いになる何かを求めた。違うのは、チカはハルくんという人に救われて、ミームという推しを応援することを選び、「自分が神様になろうなんて思わない」と言う。志乃は芸人の名前もまったくわからないまま、自分がプレイヤーとしてお笑いをやろうとする。チカがお笑いをやりたいと朝海に語る志乃を見るとき、そこにはハルくんと同種の、誰かの神様になりうる者の輝きがあるのかもしれない。そして志乃と朝海が繰り広げたネタの中にはミームのボケがあり、志乃がお笑いをやろうと思ったきっかけはミームを見たことだった。ハルくんが世界から忘れられていくことに憤っていたチカは、志乃を通じて彼が生き続けていることを知る。このある種の救いの形がとても美しい。

チカの友達である陽気なギャルのゆかりは、今作は潮みかさんが演じているのだけど、めちゃくちゃ良かった…!悪い芝居の方なんですね。絶対また観たい。最後にゆかりがチカを抱きしめてかける台詞が増えていたことで、このふたりの絆の物語という印象が増したのかも。ゆかりは仲の良い家庭で愛されて育って、家庭に問題を抱え家にもあまり帰っていないチカのことを心配しながらも、それを踏み込んで伝えられずにいる。今回チカがメガホンで叫んでブチギレ、ハルくんのいない世界で生きていけない!と慟哭した時点で身を裂かれるつらさに泣いてたけど、ゆかりが大切な人が苦しんでいるのに何もできないつらさを語り、「ゆかがハルくんだったらなあ」でもうダメだった。潮さんのギャル、キャラクター性も高いのに同時に血の通った人間らしさにあふれてて本当に良い。「おいも農家の人じゃんか」の言い方で毎回笑ってしまう。

 

2回観て改めて思ったけど、この物語って人と人がぶつかったりすれ違ったりしながらも、互いに影響を与え合って良い意味で変わっていく、そのプロセスがとっても美しくて尊い作品だと思う。つやつや〜では、ちあきが「無駄な優しさと引き換えにクオリティ落ちてる」と言う通り、ぶつかりあえずにいたぷるタブのふたりが、衝突を経て運命共同体として改めて歩き出す。そして、ファンファン〜でも本当の気持ちを言い合えずにいたゆかちかの2人、おともだちーズの2人が、衝突を経て変わる。ゆかりはチカを思っているということを言えずにいたし、逆に朝海は志乃に対して過剰に支配的で距離が近すぎた。最後、朝海が志乃に「ひとりで大丈夫でしょ」と言えるシーンがすごくいい。朝海役の中野亜美さん、推し缶も買わせていただきましたが、今回も漫才で毒舌なエールを送るシーン、朝海の隠しきれない感情が全身からあふれでていて確実に泣く。そしてこの影響を受けて山ちゃんも変化する。山ちゃんは元芸人ということもあり、志乃が劇場で漫才やりたいと言い出したときには明らかにムッとしてるんだけど、その後志乃と朝海の言い合いが進んでいくと、お笑いの面白さを語る志乃に肩入れし、朝海に「応援してやりゃいいじゃん」と苦言を呈す。そして最後にはチカの祭壇を直し、おともだちーズの漫才のためにセンターマイク(の代わりになる物)を取りに行ってくれる。人間ってひとりの中にこういう多面性があるし、その心の動きにまるで違和感がないのがいい。献心さん、初演の鈴木さんよりやや怖めな印象で、言い方は基本柔らかめな中でもキレるシーンが堂に入ってるのが(今世は他人だろ!のとこ)良い。

 

現実のわたしたちはこんな風にぶつかれずに、何も言えないまま疎遠になってしまったり、変わるべきときに変われなくて後悔したりする。だからこの物語に出てくる全員を愛しく眩しく感じるのかもしれない。

 

あと、今回の再演でつや・ファンどちらも、お笑いにおける女性という性別の不利に関する台詞が増えていた。つやつやではちあきが「女には向いてない」「女っていう性別は、お笑いにおいて不利なことが多すぎる」と発言し、それを津田くんが否定する流れ。ファンファンでは朝海が志乃を否定するくだりで「女芸人なんて男より苦労するし、最後には何も残らない」という言葉。これって現実にお笑い界(をはじめとした社会全体)に存在するジェンダー不平等そのもので、それをちゃんと劇中で指摘してくれることにわたしは信頼感を覚える。「瞬きと閃光」での彩加の台詞もそうだった。そして同時にカブキ姐さんや、この後きっと芸人として生きていくだろう志乃の姿を描くことで、今その只中で生きている人たちへのリスペクトも感じた。

 

おまけ回で初めて生のサツキを観れたのも嬉しかった!サツキ、チカ、ゆかり全員服装の系統が違う(カジュアル、地雷、ギャル)のがめちゃくちゃわかる。オタクの友達グループってそうなんだよな。ウィスパーのオタクになるんか!と驚いた(サツキも推し増しするタイプのオタクなんだな)けど、津田くんはウィスパーのこと面白いと思ってるわけだから好きな笑いの方向性としては一貫してるんだなと思った。

あとめっちゃ細かいけど、ファンファンで出てくるぷるタブ、阿久井くんの服装が(メガネとかも)オフの芸人の解像度高すぎてウケた。売れてきた芸人、キャップにメガネがち。

これは妄想なんですけど津田くんはIPPONグランプリで無双してほしいし(初演から言ってるけど絶対大喜利強いと思う)、阿久井くんはハニトラドッキリをかけられてバズる未来が見える。あと気が利きそうなのでバラエティのひな壇で重宝されて出世しそう。