言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

最小単位の運命共同体

ムシラセ「つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ」同じ世界観の二本立て。山崎丸光さんが観たかったのと、芸人という題材が好きなのと、宣伝クリエイティブが素敵だったので観に行った。

 

「つやつやのやつ」

人気お笑いコンビ・ミームのボケのハルくんが亡くなり、そのお通夜が舞台。ミームと同期のコンビ・ぷるぷるタブレットは芸歴10年目だが鳴かず飛ばずで、ボケの吉光は相方の津田に解散を切り出そうかと考えている。大御所二世落語家の安楽亭おすし、ベテランピン芸人のカブキ・インフィニティ、言葉を喋らない芸風をオフのときも貫く後輩芸人のウィスパー髙木、芸人を渡り歩くプロ彼女のちあきらがお通夜を訪れる。

まず丸光さんの吉光と辻さんの津田のコンビがあまりにも芸人だった。ネタ書いてなくてモテたいからボケやってるけど気質的にはツッコミの方が向いてて短絡的で軽薄な吉光(一人称は俺)と、ネタ書いてて尖ってて人脈とか全然興味なくてちょっと浮世離れしてるお笑いサイコパスの津田(一人称は僕)、吉光はネタも書かないのに売れないのをどこかで津田のせいにしている、しかし津田だけは吉光を世界でいちばん面白いと思っている…あまりにも芸人コンビというものに対する解像度が高すぎる。漫才の頭が台本と違って、「いまだに美容院で可愛くしてくださいって言ってる方が吉光で、おばあちゃんに切ってもらってる方が津田です」だったけど日替わりなのか?あと吉光が作った銃のネタ(全然面白くない)でめっちゃ笑っちゃった。

SNSとか見てると丸光さんってどちらかといえば思慮深い人だと感じるんですが、今回は適当で考えが浅くてちょっとずるくて、でも根は悪いやつじゃなくて憎めないしその人間らしさが絶妙におもしろい吉光だった。辻さんは初めて観たんだけど、尖り具合と世界から2センチくらい浮いてる感じが最高すぎたし、吉光のことみっちゃんって呼んでるのもいいし、好きなタイプの芸人だ!!絶対大喜利強い。最後「なんで追いかけてこないの!もういいよって言ったらふたりではけないと!」ってキレる津田くん、まず台詞が良いのに加え、演技がめんどくさい彼女みたいで、わたしの統計上センスある繊細なボケはめんどくさい彼女みたいな率が高いので、わかりみがすごかった。ラスト、タバコを捨てて津田くんを追いかける吉光が清々しかったな。

山森さんの安楽亭おすし師匠もすごくよくて、全然人の名前を覚えないから嫌な奴なのかと思いきや、マジで歳によって記憶力がヤバい(落語家にとっては致命的)ということがウィスパーとの会話でわかり、二世だからこそのつらさとか、この人にはこの人の戦いがあるんだなと思わせる哀愁が…そうなるとちょっと可愛く見えてくる。

ちあきはどんどん上のランクの芸人を狙うプロ彼女なんだけど、この作品でいちばん人間性が見えなくて、登場人物というか舞台装置みたいに感じる。吉光へのキレキレすぎる論破も一周回って災害みたいな有無を言わせぬ破壊力がある。ウィスパーはなぜ今の芸風になったのか?がわかる吉光とのやりとり良かった、ウィスパーは自分と同じ轍を踏もうとしている吉光への老婆心と、ときどき強引だけど自分を面白いと言ってくれて好きな先輩である津田への義理でああしたのかなと思った。そして何よりカブキ姐さんがうますぎ。喋ること全部面白くて時々かっこいい。チラシのビジュからこんな役だとは1ミリも想像できないんだわ。菊池美里さん初めて観たけどすごいな。

総合してとても面白いし、芸人のしんどさとかっこよさが鮮やかに描かれている。続けないと終わっちゃう、続けてれば明日売れるかもしれない、という津田のシーンを観て、これは芸人だけでなくバンド・劇団・アイドルなどあらゆる芸能における運命共同体に当てはまる話だなと思った。コンビって最小単位の運命共同体なんだな。

 

「ファンファンファンファーレ」

つやつや〜から1年後、ハルくんの一周忌の日の劇場外が舞台。ハルくんのオタクのチカ、津田くん推しのゆかり、劇場スタッフの山ちゃんが、芸人になりたい高校生のきぬ、相方候補として無理やり連れてこられた朝海と出会う。

わりと全体通して笑いどころが多い舞台だし、つやつや〜はぐっとくるところはあったけど泣きはしなかったのですが、終盤きぬちゃんとあさみんの漫才のシーンで爆泣きしてしまった。そこに至るまで、芸人になりたいきぬを朝海が止めようとするくだりが結構長くてつらいなと思っていて、特にモラハラみたいな暴言まで吐いて止めようとする朝海に対してはちょっと嫌だなという気持ちがあったんだけど、朝海は高校卒業したら留学することが決まっていて、きぬにどれだけ誘われても自分は相方にはなれない、だからきぬが芸人になるのを朝海が止めるのは、色々言ってるけど最後はただの独占欲なんだと思う。一回だけ漫才やるという約束を果たしたネタ中の朝海のひどい毒舌が、全部きぬにエールを送ってるように聞こえて、どうしようもなく可愛かったし泣けた。もちろん褒められたことじゃない発言もあるけど、高校生の友情だし、それに最後あの2人は別々になれたからきっと大丈夫なんだろうな。芝居って観てる途中にこのシーンちょっと長いなとか嫌だなって思ったのが、その後の展開で必要だったんだって腑に落ちることがあって面白いなと思う。

オタクとしてはハルくんが死んだ悲しみを吐露するチカのシーンがすごくつらかった、つやつや〜の頭、ハルくんの死を知る直前のチカが「結婚だったらショックなんだけど!絶対祝福するけど!」と言ってて良いオタクだな…と思ってたので尚更…台詞からおそらくチカは親との折り合いが悪くて家に居場所がなく、そんな彼女の生きがいがミームだったことが推測される。チカのハルくんへの感情は依存と言ってしまえば依存だし、しかも対象が亡くなってしまったことでそのまま固定化されている不幸さがある、しかしそれ自体は誰にも否定できるものではないと思う…

でもチカにゆかりがいてくれてよかった。ゆかりは本当に最高のフィクションギャルで大好きだ。まずビジュが強いし振り切った演技で愛さずにいられない。あとギャルのゆかりが津田くん推してるのめちゃくちゃいい。絶対他のもっとイケメンで売ってる芸人のオタクに「いや津田はかっこよくはないでしょ、面白くはあるけど」とか言われて「かっこいいし面白いから!!」ってキレてる(妄想)入り待ちで対吉光と対津田くんのときの違い(吉光とは気さくに会話できるが津田くんの前では何を言ってるのかわからないオタクになる)面白かったな。あとラストゆかりがサツキと電話しながら客電落ちて終わるんだけど、「津田くんの好きなテーマパークがマザー牧場で…」って言ってたの台本になかったけどすごい笑っちゃった。ゆかりがチカに宗教にはまらないかを心配されて「ゆかは大丈夫」「ゆかは?」ってくだりがその場ではわからなくて、その後チカが推しは自分の神様だって言うのを見ると、チカのことを指してるのかなと結論付けたんですが実際どうなんだ。「ゆかりの好きには重みを感じないんだよね」って台詞のくだりでも思うけど、チカとゆかりでは推し方がちょっと違うと思う。わたしはどちらかというとゆかりに近いオタクで、愛の総量は決まってないので推しが増えたらその分総量が増えるだけでそれぞれに注ぐ愛は変わらないと思っているが…推しも人間だし…。

あと山ちゃんがめちゃくちゃいい。特に祭壇に語りかけるシーン。スタッフだけど元芸人で、今も芸人として語りかけてしまうくらいお笑いが好きなんだよな。最後きぬに楽屋口はプロになってからね、って言うシーンも良かった。山ちゃんは話が進んでいくうちに解像度が上がって表情が見えてくるタイプの役だと感じて、最初からフルスロットルな役とは違う難しさがありそうと思ったんだけど、鈴木研さんすごくよかったです。他の役も見てみたい。

 

朝海がゆかりと山ちゃんに、お笑いなんて世の中が平和じゃなくなったら真っ先にいらなくなる、と言うくだり、演劇に置き換えてもそのまま成立する内容なので、これを台詞として言っていることに突き刺される気持ちになった。5月のおしゃ梅でも思ったことだが…エンタメがなくなってもわたしたち観客は物理的に死にはしないけど、宣言中全ての舞台が中止になったときの、わたしは何のために働いてるんだ??という虚無感を思い出すと、自分にとってよりよい生活を送るためにエンタメは絶対必要で、だからエゴとして今後も推しを応援し続けたいなと思う。「推す」ことに見返りがないと言う朝海に説明するとしたら、末長く健康で活発に活動し続けてくれること、それ自体が見返りなんです。