言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

女たちの血と怒り

「未婚の女」感想。深作さん作品は初見。神農直隆さんが出演されているので観に行った。日本初演作品らしい。


冒頭ちょっとだけ仕事で遅刻してしまったのが悔しい。労働は悪。ドイツ戯曲を能楽堂でやるとのことで、どんな作品なのかまったく想像ついてなかったんだけど、めちゃくちゃ破壊的(という表現が適切なのかわかんないが)な作品だった。


三世代のドイツ人女性(祖母マリア・母イングリッド・娘ウルリケ)を、祖母の過去(ナチス政権下で脱走兵だと思った若者を密告し、彼が処刑されたことで戦後戦犯として投獄された)を軸に描く。4人の男性キャストは「四姉妹」とクレジットされていて、上半身がタキシード、下半身がドレスのような黒のスカートで、祖母が投獄されたシーンでは同室の女囚たち、裁判のシーンでは裁判官・検察官・被害者遺族・弁護士、現在にあたる病室のシーンでは看護師、そのほか娘が寝るゆきずりの男たちなど、コロスとして様々な役を演じる。これ元々は女性コロスだったみたいなんだけど、なんで変えたんだろう。個人的には男性が演じることで、女性の戯画性と男性の解像度が共に高まる気がしたのでこの方が好きかも(女性ver観たことないが)


物語は祖母が倒れたところから始まり、時間軸が飛びながら、少しずつ祖母の過去が明かされていく。途中で繰り返される「アンチポストモダン」を語る台詞にもあるように、価値観は覆りうるものである。しかしわたしはこの作品を通じて強烈な怒りを感じた。当時の女性たちは、兵士が村に留まることで配給の食糧が不足するのを憂いて密告に至ったマリアのように、生活に密着したごく小さな世界で生きていた(投獄後の女たちの労働や、裁判における証人の女性の台詞からもそれを感じる)また彼女たちは途中の解説にもあるように人口政策で子を産むこと、母になることを迫られ職も奪われていたし、そもそも戦争を始めたのも男性である。しかし戦後には逆転した価値観の中で男たちに裁かれ投獄されるという怒り。

突然オタクの感想を言うと、ここの裁判のシーンで検察官を演じている神農さんがはちゃめちゃによかった。いやここまでわたしが感じてきた女たちの怒りからしたら最悪なんだけど、声の良さも相まって身を任せたくなる権威性がある。永久に尋問しててほしかった。わたし高圧的な役をやってる神農さんのことめちゃくちゃ好きです。あと男性コロスのシーンだと宮地大介さん演じる処刑された兵士の父の独白も突き刺さるものがあってよかった。

 

イングリッドは母の過去からマリアを憎み、ウルリケはマリアに寄り添って日記を紐解く。途中でイングリッドエレクトラコンプレックスの元になったギリシア神話エレクトラを名乗り、斧を手に母への殺意を見せるシーン、爆音で音楽が流れ、赤い照明の中イングリッドも音楽の西川さんもサングラスをかけてクラップを煽り、絶叫される台詞、クラブか?!って思った。そして終盤マリアは自死し、多数の男と関係を持っていたウルリケは逆上した男に暴行される。結局現代を生きる彼女も男性によって人生を覆されるのだ。絶叫と暴言が飛び交い、能舞台という伝統的な場との不協和音で脳が混乱したが、あえてやっているのかなとも思う。あと、マイクを通す台詞と通さない台詞に何らかの意味があるのかなと思ったけどわかんなかったな!というか全然わかってない気がする。でも夏川さんがカテコで言ってたとおりわからないことがわかるというのも演劇観る上では大事なのかも、だって全部わかるなんてことは絶対にないもんな。


音楽が生演奏で、不穏な効果音とかも全部その場で鳴らしているのがおもしろかった。西川さんがキャストでも完全な裏方でもない絶妙な存在感で舞台上に存在していた。


普段よく観る界隈(という言い方も雑だが)とは結構違うため、神農さんが出てなかったらおそらく観る機会がなかったと思うんだけど、おもしろかったので観れてよかった。人を追いかけているとこういう予想外な出会いがあるのが楽しい。