言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

この街のすべてがステージ

クルージングイマーシブシアター「海へ還る風となって」を観た。めちゃくちゃ感動してしまった。2日間しかない公演なので大丈夫かとは思いますが、すごくネタバレしています。


小さめの船で海から川を遡りながら、川沿いや橋の上でパフォーマンスされるダンスを観るスタイル。船上にもキャストが3人いて、録音音声に合わせた演技とダンスで物語を展開する。


横浜って江戸時代に埋め立てられたらしく(そもそもそれも今回初めて知った)そのときにお三という女性がなぜ人柱になったのか、を紐解く物語。お三は許嫁を五郎三郎(たぶん…)という男に殺されていて、その仇討ちを願って神仏に参っていたところ、新田を作るため埋め立て工事を行おうとするも度重なる氾濫で果たせずにいる勘兵衛と知り合う。お三を哀れに思った勘兵衛は仇探しに手を貸し、仇討ちは果たされる。お三はその恩返しとして自ら人柱に名乗り出たのだった。

出航時の船上キャストは勘兵衛の子孫である勘吉、勘吉の妹の三波、招待されてやってきた学者という3名なんだけど、三波にお三の記憶が宿っているというところから彼女の人生が振り返られ、面をつけて勘吉が勘兵衛、三波がお三を演じるシーンもある。同時に岸辺でも、お三・許嫁・仇の登場、人柱、氾濫する川、頓挫する埋め立て工事、仇討ち、人柱に捧げられるお三、といったシーンがダンスで展開される。


わたしは今までイマーシブシアターは自分で観るシーンを選び取る要素が重要だと思ってきて、それでいうと今作の構造はそれにはあてはまらない。でも本当にすばらしくて、イマーシブシアターの新たな可能性だと思った。わたしたちは横浜の歴史をたどるクルージングの客として船に乗船しながら、同時にはるか昔この地で起きた胸に迫る物語を目撃する。現実の横浜と、物語の中の300年以上前の横浜が二重写しになる。乗船が15時回だったので、かなり街に人も多く、おそらく何をやっているのか知らないだろうギャラリーもたくさん立ち止まっていたけど、それが没入感を削ぐのではなく、かえって演者と船の上だけが物語を共有しているという没入感を生んでいると感じたので、わたしはこの時間に観れてよかったなと思った。夜は夜ですごく綺麗そうだけど!


何がすごいって、イマーシブシアターって上演できる会場を探すのがかなり大変って前に飯塚さんが言ってたが、このスタイルは街全部が会場だから、空間の制約がなくどこでもできる!でも同時に、今回って横浜市のイベントで、そういう公的な企画じゃなかったら絶対難しいだろうなとも思う。橋の上の一部とか囲って人通らないようにしてたし、川沿いのビルの屋上使ってるシーンもあった。だから言い方が難しいけど、こんなことができるくらい認められてるんだ!という感動もあった(めちゃくちゃ大変だったのかもしれませんが…)

同時にこの形って他の自治体でも町おこし枠でできるんじゃないか??という期待も勝手にわいちゃったな。この作品を見たことで横浜の知らない歴史に触れることができて、わたしたちが生きる今に繋がるかつての人々の営みに思いを馳せるきっかけになった。船が折り返してから海まで戻る航路でも、船から見る街の景色がなんだか違って見えて、世界の彩度が一段上がったみたいにわくわくした。こういう体験を日本の(もしかしたら日本以外でも)いろんな街でつくれたらすごくない?


あと、改めてダンスって本当に素敵だなと思った。わたしはDAZZLEを好きになってからダンスの公演を観に行くようになったが、日本におけるダンス公演って自分もダンスやってる人や関係者が観ることが多いというか、自分は踊れないけどダンスを観るというのはまだまだメジャーな趣味とはいえないと思う。でもダンス観るのって、自分が踊れなくてもめちゃくちゃ面白いし興奮する。今日岸でのダンスを船から見ながら、ノンバーバルだからこそ表現したい出来事や感情がダイレクトに飛び込んでくるのを感じて、心に触られるみたいだった。お三が人柱になるシーン、橋に向けて白装束の一団が歩いていき、青い服を着たお三だけを残して去る。橋の上にいる黄色い衣装のダンサーは仏みたいに見えて、その中に混じって踊るお三を見ていたら涙が出た。あと最近の常設はどうしても空間的制約があるので(それにはそれの良さがあるけど)、制約が皆無な広い空間での群舞の美しさに見とれた。同時に船上ではすごく近い距離で、その役として生きてる人間の濃密なパフォーマンスを見せてもらえて、両方のよさがあった。船でこんな風に踊れるんだ!って、技術面でもやっぱりすごかった。かずさんの学者めちゃくちゃ好きすぎた…また観たい…。


本当に本当に素晴らしかった。わたしはDAZZLEに出会えたことで人生がとっても豊かになったと思う。これからもずっと見たことのないものを見せてほしいです。大好き!

 

あとこれ船上からストレスなくパフォーマンス見せるためには船をかなり繊細に操縦しなきゃいけないと思うから船長さんありがとうございますと思ったし、キャストはいっぱい移動してすごく大変な気がするので本当にありがとうございます、特にゆらさんと黒川さんは川入ってたけど夜とか超寒そう、あったかくしてください(あのシーンがクランプなのめちゃくちゃよかった!!)