言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

気づかせてもらった感謝

「Breakthrough Journey」2022年度の感想。振付・出演のDAZZLEが好きなので観に行った。今回再演なんですが、初演時はまだ詳しく知らなかったので初見。


国内7地域、海外4地域のチームが物語の中でパフォーマンスを見せていくダンス公演。ストーリーとしては、カメラマンを夢見るアジア(国はセリフで明言されていないがおそらくシンガポール)の少年(DAZZLEイッキさん)と、聴覚障害を持つダンサー志望の日本の少女(実際に聴覚障害を持つダンサーの梶本瑞希さん)がインターネット上で交友を深め、香港で開催されるダンスフェスティバルで会う約束をする。少年と少女が道程で出会う人々を各国・日本各地のチームが演じながらナンバーを披露する(少年のヒッチハイクの手助けをしてくれる地元ダンスチームをシンガポール代表、スリからカメラを取り返してくれるマレーシアの人々をマレーシア代表、みたいに)少女は耳が聞こえないことを公にしておらず、ダンスフェスティバル会場で笑われて逃げ出してしまうが、少年は少女を追いかける。少女は障害について告白して、2人は東京でついに出会う、というところで幕。


まず多様なチームのダンスをひとつの作品としてまとめて見せるためのパッケージングが優れていると思った。ショーケース的なダンス公演の難しさとして、振付やスキルの違いによって一貫した世界観で見せづらく、観客の集中力がぶつ切れになる(発表会的になってしまう)ことがあると思うんだけど、主人公の少年と少女が旅する中で出会う風景として描くことで、チームごとの違いを鮮やかな個性としている。同時に、極力ひとつの作品としてまとめあげるための見せ方の工夫も随所に見られる。画作りが美しい。島根のチームで特に感じた。狐の嫁入りのシーンの人々を背景に持ってくることで、モノトーンの衣装の人々とカラフルな衣装を着たダンサー4人を対比させつつ画を保たせている。ダンサーが全員中学生なので、軽快な身軽さはあるけど完全に4人きりではステージがだだっ広く見えてしまいそうなんだよな。衣装のパターンも多くてどれも魅力的。あとこれは総合演出なのかチームの振付側なのかわからないけど、大阪のチームがDAZZLEがよくやる階段状に並んでの手の振りを踊ったりなど、振付でのつながりも感じられた。


本作は「障害者の文化芸術創造拠点形成プロジェクト」として作られた作品で、軟骨無形成症やダウン症聴覚障害などを持つダンサーが障害のないダンサーと同様に参加している。わたしはこれまでそういう作品を生で観たことがなく、今日観るまで自分が何を感じるか不安もあった。有り体に言えば、「障害のある方が頑張っている」ことに単純な感動を感じて終わってしまうのではないかとやや懸念していた。でも実際見てみるとそれは完全に杞憂で、シンプルにダンスそのものに圧倒され引き込まれた。たとえば台湾のパートで占い師の役を演じていた方(森田かずよさん)のダンスはリーチの短さをハンデにせず、むしろ視線を集中させ繊細な表現を実現していると感じて見とれた。大阪チームのダンスからは身体的ハンデなんて関係ない!という踊ることの根源的な楽しさが伝わってきてキラキラしていたし、マレーシアチームの左脚がない車椅子のメンバーを中央においたフォーメーションダンスはまるで観たことのないものだった。日常生活において、障害の有無を完全に度外視することは今の科学や社会ではまだできない、でも「ダンスで表現する」ということにおいてはそれは全く関係なくて、むしろ個性や強みにもなりうるということを実感できた。ダンスってすごい。上で書いた心配と先約があったから1公演しか取っていなかったんだけど、普通に全通すればよかったな…と今は思っている。ダンス観るのって音楽ライブと同じ感覚で、同じナンバーやっても毎回違うので何回観ても楽しいんだよな。


あとわたしは「Venus of TOKYO」で安藤紗由莉さんのダンスを好きになったので、今回プレイハウスの広いステージで踊るところをたくさん見れてうれしかったです。少女の学校でのシーンはぐるっと脚を上げたり大きく手足を伸ばしたりの振付がご本人のしなやかさによく似合っていたし、電車の作業員のシーンはツナギの衣装もかっこよくて眼差しのクールさがVoTの看護師を思い出したし(はけていくときに汗を拭うマイムしてたの細かくて良かった)スーツに赤い手袋で踊るナンバーはひたすらかっこよかったのと、ラストの決めポーズがDAZZLEだと主宰が担当するやつっぽくてテンション上がった。マレーシアのダンスを観に来るシーンはにこにこしててかわいかったな。


DAZZLEが9人で踊る姿も去年の「NORA」ぶり(トークショーで踊ったときはあったが)に観て、当時と比較してメンバーへの自分の思い入れが爆増しているのもあり、さらに物語上のカタルシス(少年の心象風景みたいにみんな色鮮やかな衣装で出てくるから…)も合わさって終始ぐっときていた。イッキさんの少年は手足の長さを生かした伸びやかなダンスで(特に苦悩や悲しみの表現が良かった)またDAZZLEユーキさん、しんじさん、カズさん、あつしさんが少年の分身(内心の声)を演じていて、少年が香港へヒッチハイクしようとするシーンのコミカルなかわいさも良かった。少女の方も女性アンサンブルが分身を演じていて、最後ふたりが出会うシーンでそっとそれぞれの背中を押すのに泣いてしまう。あとレストランの嫌な客、学校の配慮に欠けた教師、カメラ屋、船乗りなど多くのモブをDAZZLE主宰の達也さんが七変化で演じていておもしろかったのと、カメラ屋で顕著だったけど台の下から出した手だけで踊る(本当に踊ってる)のがすごい。主宰の手は魔法の手。


少女役の瑞希さんについて。聴覚障害がある方がどうやって曲に合わせて踊るのか最初わからなかったんだけど、実際公演で観たら、聞いていなければ聴覚障害があるとは全く思わないダンスだった。他のメンバーが身体に触れたり指でカウントを出すことできっかけを示しているらしい。それもすごいし、そこから拍を保ちながら魅せるのは本当にご本人の鍛錬によるものだと思うのでとてもすごい。ちょっと話がずれるかもしれないが、近年マイノリティの役には当事者性を持った演者をキャスティングすべきという意見が一般的になりつつあり(わたしは実現性がある限りそうあるべきだと思っている)そのときバックラッシュとして、当事者の方に求められているだけの表現スキルがあるのか?という反発が発生しうると思っていて、だからこそ本作のような公演によって、障害を持った演者がそうでない演者と同様にハイレベルなパフォーマンスの実績を残すことは社会的にもとても重要なのではないかと思った。

 

総合して、DAZZLEを好きにならなければこの公演を観に行くきっかけを見つけられなかったと思うので、出会えて本当によかったなという気持ち。主宰が以前「DAZZLEに気づいてくれてありがとう」と書かれていたんだけど、ダンスを観る面白さやダンスから得る様々な感情をはじめ、自分がDAZZLEに気づかせてもらったことがたくさんあるし、きっとこれからも増えていく。それはとても嬉しいなと思う。