言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

誰も取り残さない物語

梅棒「曇天ガエシ」初日、観終わった瞬間の感想。全部ネタバレです。結構ネガティブなことを書いています。でもここからまだ変わっていくんじゃないかなあと思う部分もある。


前提として、ダンスの魅せ方、歌詞ハメの表現、演者のスキルを活かしたアクションや振付、サイバーパンクな世界観とプロジェクションマッピングを活かした演出、かっこよすぎる照明、ポップでカラフルな衣装やヘアメ、などは全部すごくよかったです。大きな会場を前提とした見せ方で素敵だった。それを踏まえた上で、感情面があまり入り込めなかった。


というか、アヤトビの人生があまりにつらすぎない???

クーデターから王子を庇っただけで罪もないのに15年も投獄され辛酸を舐め、やっと出られて王子も生きてた!国に復讐しよう!となるけど土壇場でやっぱりお前とは行けない(暴力革命はNo)と言われ、ボロボロになりながら倒したと思った仇も死んでないし、最後罪はなくなったとはいえひとりでどこかに去る…。

メツがアヤトビに救われて生き延びたという過去を最後まで知らずに終わるのが、そうするんだ…と思った、それが伝わればまだ救われる何かもあった気がするんだが…というか、観終わった後に友達と話していて、別に今回の展開でもアヤトビ自身が納得しているならそれでいいと思えるのかもしれないんだけど、心情がわからなすぎたからこっちが勝手に辛くなってるのかもしれない。怒りや憎しみの感情しか読み取れなかったので…。それは結構クニクズシ全体に言えて、ビジュアルとスキルが先行しててどういう人間なのかの内面がよくわからないんだよな。

メツを止めようとするマサゴと、クニクズシを止めようとするブギョーショが手を組むのは構造としてはわかるが、そこまででクニクズシが犯罪者という設定はあってもネガティブに描かれていないと感じるので(ヤバさはもちろんあるけど)あそこで少数のクニクズシVS多数のマサゴ・ブギョーショという戦いの構図にモヤモヤが募った。あくまで暴力に訴えることを否定する姿勢なのかもしれないが、最後あそこまでしたジュウロクのこともイイエモンが救うなら、アヤトビに対してもう少し精神的な救いを置いてくれても良くないですか…?これわたしの見方が偏ってるのかなあ。どんなに押さえつけられていても、先に暴力を振るわれていても暴力を返すのはNGということ?ヌューダが即位して国は平和になり皆笑顔のハッピーエンドにおいて、アヤトビが前王への忠誠を持ってメツを救ったことは何も語られない。一度復讐に手を染めたことで物語から弾き出されているように感じてしまって、とてもつらかった。救われない人間がいることを強調したいならジュウロクと共に死ぬ方がいいと思うし…。


というか今作は完全にファンタジー世界観なので、その情報インプットに尺を割かないといけないこともあり、出来事!出来事!って感じになって感情表現が不足している印象がややぬぐえない。GLOVERもファンタジーだったけど、あれはロミジュリが大枠のストーリーにあるということがかなり助けになっていたんだなと気づいた。言い方が難しいが、まだキャラに魂が入り切っていない気がする…。その中で、スピカがジュウロクに逆らったとき、仲間の兵士たちがスピカを心配するシーンはとてもよくて、感情が初めて動いた。あそこで兵士も血の通った人間たちであるということを強く感じられた。


今日の時点で見どころたっぷりだしワクワクするシーンもたくさんあり、決して公演として未完成なわけではない。十分めちゃめちゃ面白い。ただ、梅棒ならもっともっと感情を揺らして、誰も取り残さずに連れて行ってくれると信じているので、正直な感想を書いてみた。新国立劇場公演を楽しみにしています。

 

あと突然ここまでと全然違う話するけど、上西さんが顔もパフォーマンスもあまりにもかっこよすぎました。身体どうなってるんだ。好きです。カテコで鉄棒の上にのぼったり、首だけでぶら下がってたりしておもしろ凄すぎた。