言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

忘れるという希望

露と枕「帰忘」あんよはじょうず。で見た奥泉さんが気になり、劇団公演を観に行った。ネタバレしています。


白っぽいくすんだ色味のナチュラル風なセット。中央に丸いベンチと、その上に金木犀の花をイメージしたオブジェが吊るされている。上手にテーブルとベンチ。下手に茂み。場面が分かれる際には下手が事故現場、上手がその近所の梔が営む喫茶店になる。客入れから金木犀という歌詞の入った曲を集めたプレイリストがかかっていた。


山道での自動車事故で乗り合わせた女性5人が死亡、1人が意識不明の重体に。その1年後、事故現場に亡くなった女性たちそれぞれの婚約者である男5人、意識が回復した運転手の女とその婚約者が偶然一堂に会する。婚約者の1人・桂は、特に共通点もなかった女性たちがなぜ同じタイミングで結婚し同じ車で亡くなったのかを知りたがるが、運転手の女・燈山は事故のショックでここ4、5年の記憶を失っていた。そこからいろいろあって、女性たちは10年前に集団自殺を目的としたネット掲示板で知り合ったということがわかる。家庭に問題を抱えていた彼女たちは、結婚して「普通の」家庭を築くことへの憧れを持ちつつも同時に不可能だと感じていた。恋人のことを知ろうとしなかったのか、あれは自殺だった、お前たちが傷つけたんだと男たちに怒る燈山と、彼女たちが死を選ぶような心当たりがないと戸惑う男たち。最終的に元々は自殺するために知り合ったメンバーだけれど、10年の間に気持ちが変わってその目的を忘れ、今回は本当に事故なのではないか?という可能性も見えてきて、ただ事故か自殺かは明確にはわからないという終わり方。

燈山が彼女たちとインターネットで知り合ったと言うくだりと、その後の金森との何かを隠しているやりとりの時点で、自殺志願者か性暴力サバイバーの集まりなのかなとはぼんやり思ったんだけど、一旦結婚詐欺の方向に行きかけたのはそっち?!となって、結構先を読めずに見た。


特に前半が良く、婚約者5人の人となりを自然な会話の中で描き出していくのがうまい。重めの題材ではあるけど、会話の端々にクスッと笑ってしまうようなところもあり、なおかつその笑いが物語から浮いていない(観客が違和感を感じない)ので、自然に5人それぞれへの好感を持っていけると思った。丹羽が梔に執着するくだりだけは少し浮いている気がして、あの設定必要だったか?と思って考えていたんだけど、最後梔はチヅル(丹羽の亡くなった妻)に似ているかと聞かれた燈山が答えを濁すのって、実際似ていなくて、それだと丹羽がチヅルさんは接触のたびにお金を払うやりとりを楽しんでた、って言う話にも信憑性がなくなってくるということ?そう考えると怖いな。

あと他の皆が喪服やジャケットな中で金森だけ平服なんだけど、それは彼が月命日には必ず事故現場に足を運んでいるからお参りが日常になっているということが、後半の梔との会話や最後の「また来月」からわかる。最初の桂との本を投げてる云々のやりとりも、お供え物としてだということがわかる(ちなみに台本を買うと巻末に金森と梔の夫の小説がついててとても良い)


自分がぴんとこなかった点は燈山の演技。まず彼女は事故で直近4,5年の記憶を失っているので、自分が運転手だったことも覚えておらず、あっけらかんと登場する。そして初めは婚約者たちから友人たちの話を聞きたがるが、結婚詐欺の濡れ衣を着せられたくだりから婚約者たちが友人の過去を知らないことに激怒する。

まず最初に明るく登場したのがよくわからなくて、その後にあそこまで強く怒るくらい大切な友人なら、もう少し沈んだ態度というか、喪に服すポーズくらいは見せるべきではと思ったんだけど、この燈山はまだ死にたい燈山で、友人たちもその念願に成功したのだと内心で思っているから悼むという視点がないってことなのか?そうだとしたらここまではわかるのかもしれない。ただ、このラストを素直に見ると彼女たちは自殺サークルで知り合ったけれど、事故のタイミングではそれぞれ自殺願望を捨て、前向きに歩き出そうとしていたタイミングなのでは(つまり純粋に事故、そして運転手は燈山。もちろん自殺の可能性もありどちらとも言えないが)と思われる。わたしの性格が悪いのかもしれないが、このことを燈山に直接指摘して責任を感じさせようとする人間がいないことがいまいちぴんとこなかった。燈山が中盤から終盤までかなりエキセントリックにキレ続けているのに対し、婚約者たちがかなり紳士的なので(丹羽は最初怒るが、皆に止められる)かなり燈山へのヘイトをためてしまったのかもしれない。燈山の演技をあそこまで刺々しくせず(沈沢に対して態度が悪いのは全然わかるんだけど)もう少し抑えながら怒りが伝わる形にした方が観客も入り込みやすいし、終わり方が自然なのではと思う。攻撃的な感情の表出って、そこに共感できないと見ている側としては正直ひたすら苦痛なので…。

あと多分燈山というキャラクターの人格自体が好きじゃないんだと思う。燈山は終盤で桂に対して「私たち」という言い方をするけど、亡くなってしまった後も前も彼女たちは(死にたいという共通の願望を抱えていたとしても)全員違う人間で、婚約者との関係も含め一緒くたに語れることなどは存在しないので、自分と他者の境目がわかっていないような語り口がシンプルに気持ち悪く感じてしまった。


ただ全体としては比較的おもしろかったし、客演陣が皆良い。桂役の川上献心さん、ずっと穏やかすぎるくらい穏やかで優しいからこそ、終盤で少し大きな声を出すシーンのメリハリが際立つ。あと柊役の越前屋由隆さん、初見だったけど低音の声と立ち振る舞いに引き込まれる魅力がある。七里役の福井しゅんやさんは、自営業で金持ちで押しが強く結構嫌な感じのキャラクターにもなりそうなところを、軽妙な関西弁で憎めないキュートなキャラにしていたし、梔役の久保瑠衣香さんの、本題の外にいるからこその軽やかな印象もよかった(「ご注文は承りたいので!」好き)