言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

夢を見続ける狂気

温泉ドラゴン「続・五稜郭残党伝~北辰群盗録」感想。

この劇団は初見ですが、「湊横濱荒狗挽歌」が面白くて新井が大好きだったので、シライさんが脚本演出で筑波さんが出るなら…と思って行った。

戊辰戦争五稜郭の戦いから五年後、旧幕府軍の矢島は職を失い日雇いで生きる毎日だったが、新政府陸軍の命を受け、かつての仲間である兵頭が率いる群盗「共和国騎兵隊」の討伐に協力することになる。騎兵隊は単なる盗賊ではなく、北海道に共和国を建設することをあきらめていない者たちだった。矢島ら討伐軍と、兵頭ら騎兵隊による攻防が北の大地で繰り広げられる。しかし「あらゆる人間を受け入れる」理想を持った共和国騎兵隊は、それゆえにやがて内部崩壊していく。兵頭に投降を促すため、矢島はついに彼と再会するが…。

 

面白い…!!という気持ちがまず来る。セットほぼなし(中央に穴が空いてて、焚火の演出ができるのと、若干の段差)の広い舞台、机とかの小道具と衣装と人間の身体だけでこんなに動きのある物語ができるの、演劇ってやっぱすごいな。暗転は確かに相当多いんですが、暗転時間一瞬なわりに場の印象がすごい変わるので(シライさんが場当たり大変ってツイートしてたのわかる気がした)次はどんな場面だ??というワクワク感がある。わたし普段転換多い舞台あんまり好きじゃないけど、これは逆にグルーヴ感あるな。

湊横濱のラストでも思ったんですが、シライさん絵作りめちゃめちゃうまくないですか。転換も全部が全部完全暗転じゃなくて薄明かりの中で矢島と兵頭がすれ違うシーン、最後の吹雪の中での死闘で降り積もる雪の中舞台奥に兵頭、手前に矢島がいる構図、そして舞台後ろが開き、兵頭を背負ったトキノチと北辰の旗を背負ったマルーシャが逆光の中を歩んでいくラストシーン…この感覚、なんか覚えがある…と思ったら漫画だ。面白い漫画って決めゴマの使い方うまくて興奮するじゃん。そういう感じ。瞼の裏に残る。原作が小説らしくて、物語の展開自体は中盤以降正直わりと想像つくんだけど、それを全然飽きさせずに見せるのは舞台として立ち上げるのがうまいんだと思う。

騎兵隊メンバーとしてアイヌのトキノチと、アイヌとロシアの混血であるマルーシャというふたりが出てくるんだけど、このふたりの描かれ方はちょっと微妙に感じた。特にマルーシャが暴行されそうになってトキノチが助けたことからふたりが騎兵隊を離れることになるくだりは、性暴力が物語の装置として扱われているなという印象を受けてしまい(これは原作からそうなのかなと思いますが)自分が女性だからもあるのかもしれないが、ちょっとうーんと思った。アイヌのふたりがなぜ騎兵隊にいるのかは、シーンとしては描かれなくて言葉だけで説明される形なので、それもこのふたりにいまいち感情移入しきれず書き割りっぽく感じてしまった理由なのかもしれない(演者の演技とかではなく)。トキノチの筑波さんすごく武骨というか、新井のときに感じた飄々としたうさんくささが全く無くて、全然違う人だ〜と思って良かったんだけど、あのちょっと不器用な感じは母語でない倭人の言葉で話している設定だからなのか?

登場人物が結構多いけど、適度に個性があり掴みやすい。生田役の林明寛さん、遠い昔に忍たまのミュージカルで観ていたのですが(小平太やってて大好きでした)久々に観て、物語の中では決して良い人間の役ではない、それでも彼は彼なりの考えがあって生きていたということが伝わってくるように演じていて良かった。田沢役の伊原農さんも、揺れる内面の演技と、それでも最後に自分の信じたものを守った善性のきらめきが素敵だったな。そして兵藤を演じる阪本篤さんはどんどん印象が変わった。序盤理想に燃えて騎兵隊を指揮しているときはすごくカリスマ指導者的に見えたのが、中盤村人を殺す殺さないのくだりでは迷いや揺らぎが感じられる。さらに終盤、ずっと隠していた秘策が榎本武揚との約束ともいえないような会話だったとわかり、矢島に狂人呼ばわりされるくだり以降は、急にどこか哀れにも見える。でも最後小屋から出てきて矢島と対峙するシーンでは、矢島に向けての叫びは悲痛なんだけど、憑き物が落ちたみたいに清々しく見えた。あと声がめちゃめちゃ良いです。逆に矢島は内面の揺れ動きは感じさせながらも、キャラクターとしての印象は物語通して一貫してたな。矢島はもう夢から降りているからなのかな。陸軍の責任者である畑山が矢島と最初めちゃくちゃ衝突するんだけど、作戦の中で徐々に認めていく流れがじわじわ良かった。

最後、吹き荒ぶ雪の中で矢島と兵頭が真剣で戦うシーンが美しい。紙吹雪の量がすごくて、俳優も多分足をとられてるし倒れ込むとぶわって舞い上がる。それが本当に足元の悪い雪の中で戦ってるような動きのおぼつかなさになって、演技とリアルがないまぜになる身体性みたいなものが見えて好きだった。そして矢島にとって兵頭は、あったかもしれない自分自身の姿だ。最初に榎本武揚が室蘭への伝令を命じたのは矢島で、土壇場で兵頭に変えるんだけど、それがなければもしかすると群盗を率いて夢とも妄想ともつかない共和国を目指し続けていたのは矢島だったかもしれない。吹雪の中で兵藤に馬乗りになって刀を向け「共和国の夢は危険だ」と言う矢島は自分自身に言い聞かせているかのようだ。そして最後とどめを刺すことはできない。革命の炎は燃え続ける。

兵頭の目指した共和国は現代からしたら在るべき国の在り方なんだけど、時代が早すぎたし、そして彼の言うような理想的な共和制は今なお実現されていない。原作者は連合赤軍をモチーフとして騎兵隊を描いているそうで、確かにひとつの大きな理想の下にあらゆる人間を分け隔てなく受け入れる共同体が、いずれ個々の人間のエゴや軋轢によって内部崩壊するというのは歴史上そうかもしれないんだけど、それを乗り越えることはできないのだろうか。できてほしいけどな。

シライさんの演出は良い意味でエンタメ性が高くて好きな気がする。青年座の「ある王妃の死」がより楽しみになった。あと来年の温泉ドラゴンも観たい。