言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

三越劇場は最高

「The Great Gatsby In Tokyo」村田充さんが好きな気がしているので観に行った。


三越劇場、多分初めて行ったんだけどすごい豪華な空間だった。帝劇をぎゅっとしたみたい。舞台も広いし見やすい。入場からスタッフさんに「ギャツビー邸へようこそ」と声をかけられ、席に着くと舞台上では屋敷の使用人役のキャストたちがパーティーの準備を始めながら前説をしている。観客もパーティーの参加者という設定で物語に入り込んでいく。三越劇場という空間の強みをよく生かした演出だと思う。


狂言回しにあたるニックが、近所に住む謎の大金持ち・ギャツビー邸で毎週末行われるパーティーに参加したことから物語が始まる。大金持ちで貴族の生まれと噂されているギャツビーは魅力的な男で、ニックを親しげに友と呼びランチに招待する。実は彼にはある狙いがあった。ギャツビーは5年前にニックの従妹のデイジーと留学先で知り合い交際していたが、その後姿を消し、デイジー鉄道王の御曹司・トムと結婚。しかしトムは女癖が悪く不倫を繰り返し、現在進行形で自動車修理工ウィルソンの妻であるマートルと大っぴらに関係を続けている。ギャツビーはデイジーを取り戻すために彼女を追って東京にやってきて、いつか彼女が訪れることを願ってパーティーを開催していた。偶然を装った再会のセッティングを頼まれたニックは、トムに苦しめられるデイジーを哀れに思っていたこともあり協力。ふたりはヨリを戻して関係を持ち、トムを交えた別れ話が行われる。しかし密かにギャツビーの身元を調べさせていたトムが、彼の生まれが貴族ではなく、仕事も怪しげな不動産詐欺だと暴露。動転したデイジーは部屋を飛び出していき、追いかけるギャツビー。同時にその頃マートルとウィルソンは別れ話で言い争い、道路に飛び出したマートルをギャツビーの車がはねてマートルは即死する。運転していたのはデイジーだったが、トムが言葉巧みに浮気の件含めてギャツビーに罪を着せ、ギャツビーを邪魔に思っていた育ての親(マフィア?)ウルフシャイムの教唆もあり、ウィルソンがギャツビーを撃ち殺し自殺。ニックは東京を離れることを決める。


私は原作を知らないんだけど、舞台が1920年代のアメリカから現代の東京になっているだけで、おそらくストーリーについて原作から大きな改変はないんだと思う。それゆえにかなり違和感がある。東京が舞台なのに日本人がひとりも登場しないのも(まあそれはそういうコミュニティだとすればなんとか…)、現代なのにスマートフォンがあまり登場せず全てを固定電話でやりとりするのも(LINEして、みたいなセリフはあるけど)、そもそも登場人物の性格も…マートルとデイジーについて特にそれが顕著で、マートルについては豊かな生活をしたいなら自分で稼ぐべきだし、デイジーについては令和の時代にあの自我のなさはヤバい。舞台を現代にしたことによって、そのあたりの感情移入できなさが際立ってしまっていると感じる。


一言で言うと胸糞な話なのでどうしてこんなに人気なのかよくわからないんだけど、人は胸糞が好きってことなのかな。とにかく全員どうしようもない中でニックだけがまだちゃんとしてる。時代のギャップが大きいんだろうけどロミジュリに対して感じるような、なんでそうなる?という感覚がすごい。まずギャツビーは消える前に事情をデイジーに説明するべきだし、自分の生まれなどの説明をしたら彼女が離れると思うならどっちにしろ早晩うまくいかなくなるのは目に見えてる、トムはマジで有害な男らしさを煮詰めたみたいな男で最悪にキモい、自分の浮気を正当化するならデイジーの浮気も認めろと思うし、マートルはとにかく働けと思うし、デイジーは浮気されて辛いと言いつつトムと結婚したのは金があったからだろと思うと自業自得ではという気もするし…全員無理なんだよな…というかこの話でいちばんよくわからないのは、ギャツビーがここまで人生を注ぎ込むほどの魅力がデイジーに全く感じられないことで(これは演者さんがどうこうではなく、そもそもの物語に対して思う)こんな悲劇のヒロインぶるだけの女の何がそんなによかったの?女の趣味悪すぎない?と思うんだけど、一方でギャツビーはデイジーの意志を無視して話を進めようとするくだりもあったりして本当に好きなの?とも思う、そもそも自分の生まれに強烈なコンプレックスを感じていたであろうギャツビー的には、デイジーの薄っぺらさや残酷さこそが「良家の娘」としてのブランドに感じたのかな…嫌な話だ…。


村田充さんは背が高くスタイルが良く顔が強いのでとんでもない派手な柄スーツもよく似合っていたし、あと歌がうまいということを初めて知った。ニックの黒木さんも地に足のついた堅実さとかわいさが感じられて良かった。執事のハーツォグ、マイクパフォーマンスうまくてウケた。「グラスは落とさないが女は落とす!」好き。あとパーティーの場面でキャストの歌とダンスがあって、冒頭に招待客のロキシーが1曲歌うんだけど引くほどうまかった。カラオケバトルの人なのか。バーテンダーがシェイカーで机を叩く音を会話の中の発砲音に重ねたりとか、ラブシーンで照明を全部落として演者が操作するベッドサイドランプの灯りだけにしたりとか、細かいところがおもしろかった。ただシェイカーの音がでかいのでセリフと被るとやや聞き取りづらい。

中盤、デイジーとギャツビーが再会する場面は完全に笑いに振っていて、挙動不審なギャツビーはかわいかったが、舞台上に客からの祝い花を出して宛名を紹介する演出は個人的にはちょっと受け付けなかった、ロビーまでは全然いいと思うんだけど。


とにかくなんで舞台を現代の東京にしたんだろうということに尽きる。別に原作設定のままでもギャツビー邸に来た気持ちになることはできると思うんだけど…逆に東京にするならもっと大胆に翻案したらよかったのでは…でも衣装がかわいいしダンスも楽しくて舞台は派手だし、ギリ観て損ではなかったかなという感想。