言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

海からやってくる罪

タカハ劇団「おわたり」めちゃくちゃおもしろかった!!加えて完全に自分のヘキにぶっ刺さりすぎて、全然冷静な感想が書けません。すごくネタバレしながら最高!って言ったり妄想してるだけの記事です。そういうこともあるよね!人間なので!4000文字ある。怖。


主人公の芥川賞受賞作家・四方田稔梨は、自死した大学時代の友人・裕弥の霊に悩まされ、同じく友人の民俗学者・蛯草紅雄に連れられてある村にやってくる。その村には「おわたり」という奇祭があった。海からやってくる死者を山に帰す年一度の儀式を先導するのは、村の有力者である阿部家の当主・翡翠で、彼女は死者と対話することができるという。稔梨は翡翠に裕弥との対話を依頼するが拒否され、また翡翠の孫である刹那が彼女から虐待されていることを知る。刹那が裕弥にそっくりだと驚き、彼を保護しようと言い出す稔梨と、止める紅雄。そうしておわたりの儀式が始まるが…。


映像はほぼ使わず、舞台装置や小道具、光と音でホラーを表現している。大きすぎる音でびっくりさせるような表現はほぼなく、じわじわくるタイプの怖さ。じっとりした湿度高めな物語がこの時期に観るにもよく合っている。後半ホラー展開が加速してからはどうしても暗転頻度が上がってしまうけど、暗闇の中での音の演出によって集中を切らさずに観れた。

 

この物語って死者に対して罪を持つものが裁かれる地方因習ホラーでありつつ、それと重なり合うように家父長制の呪いを描いていると解釈してる。海からやってくる「おわたりさま」は封建制度において支配者に見殺しにされた民であり、同時に母親に呪い殺された娘、父親に絞め殺された息子、男に弄ばれた女だ。出奔した後継の娘・瑠璃を許せず呪い殺した翡翠、横領を指摘され息子・安を殺した光義、数多くの女を弄んだ純、それぞれに後ろ暗いところのある彼らは報いを受けることになる。ただ別に霊は勧善懲悪なわけではない得体の知れないもので、その証拠としてラストで稔梨は何者かわからない存在によってあの世へと連れていかれる、この後味の悪さがJホラー的。あと劇中は1995年なんだけど、紅雄が助手の斑鳩さんに民俗学の意義について語るシーンの「糸が切れる恐怖」は、現代社会での歴史修正や人文学軽視についても地続きに当てはまると感じて、こういう何かの話をしながら同時に二重写しで別のことについても感じさせる、みたいのは演劇のおもしろさのひとつだと思っているので印象深かった。


高羽さんがインタビュー記事で「可哀想萌え」があるという話をしてたんだけど、自分も多分そうなので死ぬほど興奮してしまった。みんな可哀想!特に西尾さん演じる紅雄が本当に可哀想でかわいい。紅雄は稔梨のことが好きだが全く報われず(「良い客」「良い友人でしょ」のシーン切なすぎる、友人って言われたくないよな…)最後の渾身の叫びも受け入れられずに手を離され、稔梨はあちら側へ行ってしまう。絶対あのあと稔梨のこと忘れられなくて自分を責めるけど、「紅雄は生きてる人のこと考えて」って言われたから死ぬこともできないんでしょ!ダブルヒロインの意味めちゃくちゃわかった、というか負けヒロインだよ!焦ってわたわたしたり、稔梨の婚約者の告発にキレてるのが愛らしくてびっくりした。西尾さんのこういう役新鮮なのにとってもよくて本当に演劇おばけ(褒めてます)


紅雄の助手の斑鳩さんもほんとにいい、斑鳩さんがいなかったらこの話最初から最後まで地獄だもん。ifの話だしそれを押し付けたいわけでもないけど、紅雄を救えるとしたら斑鳩さんしかいなくない?ヒーローみがある、陽キャのギャルってすごい、大好き。斑鳩さんって紅雄への態度とかセクハラの指摘もだけど完全に家父長制の呪いから切り離されたところにいて、その健康な軽やかさが救い。


刹那くんもさあ!個人的解釈ではラストで中身が抜けた刹那くんだけが現実に残ってると思うんだけど、その後稔梨と貞広さんがどうなったかを聞いて、自分をほぼ唯一心配してくれた人たち(まあふたりとも刹那くんを見ているわけではなく彼に重ねて死人を見ているだけなのですが…)の末路を知ってどう思うんだ。もしくは中身が抜けた時点で彼も終わってしまっている可能性もあるラストシーンで、それがまた良い。というかブレイキング・ザ・コードでも思ったけど田中亨さん若いのにすごい演技うまくないですか?貞広さんと刹那くんのシーンがあまりにも良くて時が止まった。貞広さんが明らかに狂ってるんだけど、どこか純粋さも感じさせる眼差しで、それを受けた刹那くんが口元だけで笑うんです、その笑顔がこれ見せられたらなんでもしちゃうわ…って説得力と怖さがあって本当にいい!その後怪異のターンでいろんな人格を演じていくところもすごい。白いロンTの衣装が何者にもなれる空洞みがあってよく合っていた。


貞広さんも…というかこれひたすら全員について書く記事になってしまうな。貞広さんは村のホモソヒエラルキーの中で踏み躙られる側で、その鬱屈からの狂気、そして瑠璃ちゃん(刹那くんの母であり村から逃げて亡くなり霊になっている)へのピュアな愛が入り混じってて、この表現言い方が難しいんだけど、気持ち悪さとギリギリのラインの美しさがあった。「なんだ瑠璃ちゃん、そこにいたんだ」で泣きそうになってしまったし、あの瞬間が客席に背を向けていて顔が見えないのもいい。貞広さんは逃げ出す瑠璃ちゃんに手を貸したけど、自分も逃げるという選択はできなかったんですよね。それが悲しいな。

 

光義は逆に完全にホモソヒエラルキーに取り込まれている側なんだけど、もっと大きな枠組みで見ると小さな村の議員にすぎず、必死に村の生き残りをはかっているという面もあり、そのあがきが悲劇を生む。全然擁護はできないけど彼の客観的な位置も見えることによって自分は一抹の哀れさも感じた。声のデカさ、外面はいいけど中の人間に対して見せる支配性、ピンクのシャツなど、全体的に「こういう田舎のおじさん」の解像度が高い。土屋さん初見で、スペースでキュートな感じで喋ってたのとあまりに別人すぎてびっくりしちゃった(まあそれは皆さんそうなのですが)


すずちゃんは斑鳩さんと一緒にギリギリ脱出できてよかったね…と思う一方で、明転前の「安さん!入らないで!」があるからその生まれた子供って大丈夫??という気持ちがすごく、すっきり終わらないJホラーみが増している…と思った。稔梨もハリウッドならあそこでギリギリ紅雄に手を引かれて飛び出せるけど、Jホラーでは助からないよね…というわかりみがある。


稔梨については、あのラストは(最後のセリフで翡翠さんが断ってた意味がわかるのでハピエンではないんだけど…そして冒頭の怪談が回収される)ある意味彼女の希望に沿った展開とも言えるし、あと稔梨も結構エキセントリックな瞬間があるので、自分としては適度に距離をとりながら観ることができた、過剰に思い入れすぎないというか…稔梨が刹那くんを助けないと!って強弁するシーン、突然アクセルぶっちぎった違和感があってめちゃ怖いんだよな。稔梨は裕弥を生かしておきたくて盗作したというし、それもある程度は真実なんだろうけど、そのあとその事実を公表せずに作家になったのは明らかに意図的なので、罪がないとは言えないと感じるから、あのエンドは好きだ。


翡翠さんについては、捉え方が難しい存在で、それを絶妙なバランスで表現しているかんのさんがすごい。彼女はイエ制度における被害者でもあるが、同時に瑠璃に対して呪いをかけた加害者でもある。翡翠と瑠璃の対峙シーン、気づいたら舞台奥の本棚に冒頭出てきた瑠璃の顔が潰された遺影がかかってることに、たしか舞台中央で首を絞め始めたとき気づいて、演出の視線誘導が完璧…と思った。すずちゃんに対して口は悪いながらも心配して助言しているのが、彼女にまだ残る一抹の人間らしさも感じさせる。でも翡翠さんは純に分家筋でまともなのはお前だけって言ってて、それは貞広さんは瑠璃の逃亡に手貸してるし光義は息子を殺してるからだけど、純の女癖についても知らないわけないよね?となると女癖については不問に処してるわけで、やっぱりホモソに取り込まれてるんだよな…。


ここからは全部オタクの叫びです。

わたしは神農さんのオタクなんですけど、常磐純があまりにも刺さりすぎてめちゃくちゃになってしまった。フィクションにおけるクズって最高なんですよ!!!

純はスーパー女癖最悪医師で、おそらく以前のおわたりで気が触れてしまった看護師というのも彼が何かしら絡んでる。下手だったので追い詰められるシーンの最後、窓に看護師が出てくるところがハッキリ見えきらなかったのですが(あそこみんなわかってるのだろうか)台本で理解できた。というか、冒頭てっきり穏やか人格者枠か?という感じで入ってきて、でもすずちゃんとの会話でおや?とさせ、その後も一見優しげに振る舞いながら稔梨を脅すシーンで本性出してくる緩急が本当によくて…にこにこしてるのが逆に最悪で…そしてそこから怪異に追い詰められるシーンの取り乱し方…盛りだくさんすぎて高羽さんに心の底から感謝という気持ちです…。

純って「東京の大学に行ってた」というプロフィールとか、物腰の柔らかさで一見進歩的な男性に見えるけど、めちゃくちゃホモソに適応した男であることが貞広さんへの態度とか稔梨へのセリフに滲み出ていて、それが大変味わい深い…いや人間としては極めて最悪なんだけど、最悪人間を演じる推しからしか得られない栄養ってあるので…。これで名前が純っていうのもいいし、柄シャツに白衣ってビジュが最高すぎて脳が焼けた。

 

とにかく全員演技がうまいし(宣伝スペースで高羽さんがうまい役者さんを起用しているみたいな話してたけど、本当にそう!って感じ)ホラーのギミックもおもしろいし、エンタメ性もありつついろんなことをぐるぐる考える話だし(あと物語のその後についてすごく考えてしまう、これは刺さっているときの傾向)そういうわけで人の感想が読みたいのでシアタートップスに行ってください!!9日までです。4日と5日はアフタートークもある。