言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

人喰い鮫の孤独

WBB vol.20.5「ギャングアワー」何回か上演されてるようだけど観るのは初めて。推し(磯野大さん)が出るので観に行った。


あらすじと作品全体の感想。舞台はギャングのアジト。主人公の渋谷は弱い自分を変えたいとギャングになったが、所属するチームはリーダー・三鷹のルールや仲間への信頼を重んじるやり方によって伸び悩んでおり、もどかしさを感じている。また新たにチームに加わった鮫洲が、実力はあるがルールを守らず勝手な行動をすることにも手を焼いている。チームは上からの命令で大富豪の息子を誘拐するが、実行部隊である下っ端の大崎と赤羽が人違いで庶民の青年・田中を誘拐してきてしまった。ルールに厳しい三鷹にミスがバレたら粛清されると恐れ、人違いを隠してなんとか誘拐を成功させようとする大崎と赤羽に、行きがかり上知恵を貸すことになる田中。さらに誘拐現場に出くわし映画の撮影と勘違いした元役者のホームレスも現れ、やがて渋谷も巻き込まれていく。


ワンシチュエーションのドタバタコメディ(シットコムというらしい)としてよくできてる。キャラの大半が突き抜けてどこかおかしい。明るくバカで行き当たりばったりすぎる赤羽、何でギャングになったの?というくらい優しく天然な大崎、金の亡者で腹の底が知れない高田、ギャングのリーダーだがやけに人格者な三鷹(「やる気が出てきたってのはいいことだ」が先生みたいで好きだった)、一般人なのに途中からどんどん誘拐のブレーンになっていく肝が座りすぎてる田中、何が起ころうと映画の撮影だという思い込みから離れないホームレス…渋谷がほぼ唯一の常識人である。設定が強引めでツッコミどころのある(それが悪いわけではない)コメディって、演者が空回ると見ていてつらいだけになるので、感情面でいかに観客の心をつかんで置いていかないかだと思うんだけど、その点で演者がみんな心の動きに納得できる演技をしてたと思った。8人全員を好きになれる。赤羽役の川﨑さんが特によかった。赤羽っていちばんギャグ的な演技が多いし台詞も多いしアドリブの標的にもなるしで大変そうだなと思うが、アドリブの返しも毎回うまく、ギャグの間もよく、また柄の悪いチンピラ感、かわいげ、バカさ、短慮さ、でも最後には大崎を守ろうとする仁義などのバランスがとてもよかった。あと大崎が電話で人質の家族を演じるシーンの渾身の侍は何回見ても爆笑していた。「この腐れ外道が!!」佐野さんの振り切り方がすごい。三鷹役の加藤さんも、厳格なリーダーの顔と、その裏にある仲間思いな柔らかい部分が魅力的だったな。大崎に銃渡すところの「訳ありか」以降の表情がとてもいい。

展開もそれはないだろ!と冷めないギリギリのバランスで走っていて楽しめた。特にホームレスが警察と名乗って乗り込んでくるところ、さすがにうーんと思っていたら田中が飛び込んできての「カット!」でもう一段階引き込まれた。田中はあの前にホームレスが2回目の脅迫電話に対応してくれたという話を聞いてるもんな。ホームレスからもらった飲食物でお腹を壊す、というくだりが繰り返されるのだけは描き方に一抹の問題を感じないでもないが…。

また、ドタバタコメディながら同時に渋谷の成長物語という軸もある。優しさを弱さと捉え、自分を変えたい、強くなりたいとギャングになった渋谷だが、三鷹の元での自分に葛藤し、リスペクトしていた彼に一度は銃を向ける。渋谷の三鷹への苛立ちや不満って、半分くらいは不甲斐ない自分への怒りだと思うんだよな。でも最後には三鷹を助けて鮫洲を撃つという選択の末、チームを受け継がせてくれと言う。他者への優しさは忘れないまま、行動すべきときには動けるようになった渋谷がそこにいる。


ここから延々鮫洲の話。


鮫洲は劇中で「狂人」と呼ばれるキャラ。ナイフ使いで神出鬼没、戦いを好みボスである三鷹の命令にも従わない彼は、ギャングの仲間たちからも「何を話せばいいかわからない」「怖い」と評されている。狂人という設定だけを見たときにはもっとヒャッハー系かと思ってたけど、物腰の柔らかい中に底知れぬ闇があるというタイプの狂い方だった。鮫洲は主人公である渋谷のことを「唯一の友達」と呼び、共に三鷹を殺そうと言う。序盤から冗談めかして誘っているんだけど、後半大崎と赤羽の人違い誘拐に渋谷が巻き込まれて以降は、それが本気の誘い、というか脅迫になる。鮫洲は最初から田中が目的の人質でないことに気づいており、渋谷が巻き込まれて引き返せなくなってから、全員の利害が一致する形で三鷹を殺そうとしていた。渋谷は苦渋の決断として鮫洲の提案に乗るが、結局三鷹を撃つことはできず、最後三鷹にとどめを刺そうとする鮫洲に発砲する。


鮫洲って怖いキャラ、底知れないキャラとして造形されているのかもしれないけど、わたしはずっと鮫洲にシンパシーを感じる部分があった。この作品内で、彼と高田だけは(ベクトルはそれぞれ別だが)振り切れている。自分たちが悪であることを自覚した上で、弱肉強食の修羅道に身を投じている。三鷹をはじめ、チームの他の面々は人間であることを捨てられていない。いわば鮫洲は羊の群れに所属することを運命付けられた狼であり、狼が上に立つ羊=三鷹を噛み殺そうと考えるのは当然では、と思う。(三鷹を羊と呼ぶことに違和感があるかもしれないが、渋谷をはじめとした部下たちへの労わりや導きの意識がある時点で、三鷹も他者のためを考えて生きている)狼っていうか、冷血動物っぽいから鮫かも。人喰い鮫だ。


鮫洲がなぜ渋谷を気に入っているのかの理由は劇中で明確には語られず、脚本家も明言していなかったけど、わたしは鮫洲が渋谷を狼になろうとする羊と見たからだと思った。羊に生まれたのに、わざわざ苦しみながら一線を踏み越えて血の滴る肉を食べようとする=人でなしのギャングになろうとする渋谷に、漠然と興味を抱いたのではと思う。脚本家がサイコパスと呼んでいるように、鮫洲にはおそらく元来他人を慮るという感性が欠落しているから羊にはなれない。同時に鮫洲は渋谷が本質的には決して肉食動物になれないことにも気づいている。だからこそ、ラスト自分を拒絶する形ながら人を撃つという一線を踏み越えた渋谷に対して、鮫洲は笑う。ふたりが手を組む未来はなくなったけど、鮫洲には新しく渋谷を殺すという未来ができたのではないか。鮫洲にとってあの終わりはハッピーエンドなのかもしれない。


まず初日は世界でいちばん美しいと思っている男が100億点の服装(黒ロングコートに黒ロングブーツ?!)で出てきた時点で脳が焼け野原になり、美しい…しか言えない妖怪になってしまったのですが、計3回見た結果として鮫洲くんの人格のことも大好きになった。全長2m近い巨大細長外道サイコパスなのに一人称が僕で、喋り方が「〜だよね」「〜でしょ」みたいにかわいいところが特に好き。でも威圧するときにはドスの効いた声でヤカラの喋り方、一人称も俺になるのを見ると、意識的な使い分けが感じられ、その二面性がまた良い。


最後に鮫洲くんの好きだったところメモ。

・キャスパレで肩にかけられた渋谷の手を口パクで「だーめ」と言いながら払う

三鷹に外出を咎められ、薄笑いから「うっかりしてた」で急に切り替わる真顔

・あんなにでかいのに登場が毎回気配なく突然現れる

・大崎に三鷹へ銃を向けさせるときの楽しそうな表情

・銃を構える渋谷への「引き金を引け!生まれ変わるんだ」のメフィストフェレスっぷり(ここでは妖しい悪魔なのに、三鷹さん「鮫洲ゥ!勝負しようぜ!」以降のタイマン殴り合いは足掻きまくってる血の通った人間になるギャップも)

・大崎が抵抗してからの暴力性(赤羽を「てめえみてえなバカに実弾持たせるわけねえだろ」って煽ってから大崎の腹に蹴り入れるとこ最高)

・あんなにタッパが違うのに力では三鷹さんに負ける(三鷹さんがゴリラすぎるから…)

・からの命乞いムーブ(策略)

三鷹の血に濡れたナイフを渋谷に見せる最悪さ

・傷口に指突っ込む、手をナイフで縫い止めるなど、全体的に戦い方がエグい

・回し蹴り!!!(足が5mあった)

というか鮫洲VS三鷹のアクション(結構長い)が本当に最高だった。体躯が全然違うので動きの違いも面白い。小柄な加藤さんの三鷹が「力バカ」って言われる通りハードパンチャーな戦いぶりなのすごくいい。鮫洲に腹殴られてちょっと笑って殴り返すのよかったな〜三鷹さんの腹筋は板チョコみたいになってるんだろうなと思った。加藤さんと結城さんのことは鬼ボン(ヒプステ)で知ったんだけど、今回リーダーと部下という関係性は一緒でも中身が全然違って面白かったな。

 

総合して推しの演技の新しい引き出しを見れたし、演者が全員よかったし、作品としても面白くてありがたい現場だった。鮫洲が渋谷を付け狙うけど、なんだかんだあって最後は共闘することになる続編見たいです!(勝手に)