言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

偏りが生む美しさ

初めて壱劇屋を観たオタクによる「憫笑姫」の長い感想。めちゃくちゃネタバレしています。


劇団の名前だけ確かエンタステージのスペースでおすすめされているのを聞いたことがあって、今回牧田哲也さんが「足癖の悪い殺陣」をやるというので観に行ってみることにした。牧田さんのこと刀ステの穴山小助からなんとなく好き。


前提としてノンバーバル作品で(叫びなどの声は発する)マイムと殺陣でストーリーが進む。とにかく殺陣。8割くらいの時間は殺陣なんじゃないかと思う。運動量がえぐい。


ストーリー。戦で母親を殺され2人で生きてきた姉妹のミラとエラがある日国王に見初められ城に召し上げられる。しかし国王はサイコ野郎で(という解釈でいいのか?)姉のミラを王妃として軍の指揮をとるという名目で女官と共に戦場に放り込む。妹を人質に取られたミラは戦場では怯えるばかりだったが騎士団長の助けもあり何とか生き残り、やがて自ら強くなることを選ぶ。エラも姉に守られてばかりでは嫌だ、共に戦いたいと志し、ミラ付きの女官3人組も加わる。騎士団長からの特訓の末、強くなった女たちは兵士らにも認められていくが、それが面白くない王は側近を使ってミラを闇討ちしようとし、ミラは顔を切り裂かれる。刺客の正体が側近だったことに気づいたエラが王を殴り、謀反人となった女たちは王に追われるが騎士団長が助ける。最終的にエラが側近、ミラが王を倒し、次の王となる。

なお王妃という名目で戦場に送り込む、というくだりは劇場で見ていたときにはよくわからず、単に性格が最悪だから娯楽として女を送り込んでるのかと思っていた。台本を読んだらわかった。

ストーリー的には王に反旗を翻した瞬間にこれ全員死ぬENDか?と思ったので、比較的光の終わり方だったなという印象。王はあんな人格破綻イカサイコパスなのに、村で姉妹を見初めたときの周りの人々のリアクションからすると支持されてるっぽいのだけはよくわからなかった。あと民が支持してるなら人格がドブでも統治はちゃんとしていたのかなと思うと、王殺した後この国大丈夫なのだろうかという懸念はある。ミラは戦は強くても村娘だと思うので…。


ここまで色々書いたけど、そんなのは全部前置きです。とにかく体感型エンタメだった。最前で観たのもあると思うが、目と鼻の先で剣が振り回され、拳が振るわれ、汗が飛び散り、斬り結ぶ剣の音と風の音が爆音で鳴らされるので、荒涼とした戦場に魂だけ飛ばされた気持ちになる。こんなもん4DXだよ(違う)

運動神経が欠落した人間としては、どうしたらこんなに大量の殺陣を覚えてこのスピードで危なげなく進めていけるのか全然わからない。本当にすごい。普通、舞台において殺陣ってあくまで表現の一形式だと思うんだけど、そこにステ全振りしているからレーダーチャートがめちゃくちゃになっている。その極端な偏りに美しさを感じる。何かひとつの目的だけのために作られた存在って美しいじゃないですか。刀剣だって美しい。人を斬るためだけに作られた存在だから。そういうタイプの作品だ。なんか誤解を招きそうですが、別にとっつきにくさはなく入りやすいエンタメです。単にわたしがそんな印象をうけたというだけの話。


ミラの西分さん、殺陣に説得力がある。それが演技なのか自然な反応なのかはわかんないんだけど、強くなった後も剣を振る動きに剣の重みの実感が感じられるというか、無制限にぶん回せるわけではなく、めちゃくちゃ頑張って切っ先をコントロールしているという印象を受けるのがリアルでよかった。あとカテコで喋ったらおもしろ関西人だった(他の人々もだけど)。ミラが初めて敵を殺すシーン(半ば成り行き)の怯えにきちんと尺が取られた上で、彼女が次に意志を持って敵を斬り倒すシーンが強調される演出が、殺陣に命のやりとりとしての奥行きを与えていると思った。あと姉妹の剣術稽古と幼少時の姉妹が一緒に遊ぶシーンが舞台上下で並列に進むの、もう戻れない平和な過去と、それでも今を2人で生きるという決意が見えてとても好きな見せ方だ。


エラの三田さん、48系列にいた子だよな…?(NMBでした)という知識しかなかったが、妹がすごくハマり役だった。この笑顔のためならがんばっちゃうだろうなというほわーんとした笑顔をしている。側近VSエラのとき、側近が兵士たちに倒れたエラを殺せって命令するけど、それがエラがかつて戦場で助けた新人兵士たちだから動けないシーンすごくいい。


女官3人組、それぞれ戦い方に個性があってかわいい。キャラ立ちがおジャ魔女どれみみたいだ。はづきちゃんみたいなメガネの子がいちばんビビりなのに、いちばん土壇場で頑張るのがいい。


牧田さんの王は、殺陣はめちゃくちゃうまいというわけではないと思うんだけど(スピード感や足捌きなど)それが逆に王の余裕って感じでよかった。顔が整っているので人を蹴り倒すとき薄く笑う表情が憎たらしすぎる。あとみんな笑ってるときに無表情なの目の奥に闇を感じる。ミラのことは妻として見てたわけじゃないと思うんだけど、恋愛になったら絶対モラハラ野郎な感じがする。とにかく人格が最悪(褒めてます、役なので)


竹村さんの騎士団長は、最初に出てきて側近とすれ違うとき、無頼で男くさい感じがビシッと決めてる側近との対比でまず良く、ぶっきらぼうなタイプかと思ったらやる気のある姉妹を鍛えてくれるし結構楽しそうで、笑うと急にかわいい。最後顔を斬られた後戦えなくなってしまっているミラをいつものようにどつかず、頭を撫でて勝ち目のない戦いに向かっていくとこでさすがに泣いた。なんであんな人格最悪王に仕えてるんだろと思ったので勝手に考えたけど、代々騎士の家柄で、人望のあった父王(故人)の元で前騎士団長を務めた父親(故人)からお前もあの王子の剣となれ!みたいな教育を受けて育ったのが呪いになってるとかだといいな。妄想です。殺陣でスライディングするんだけど、強くなった後のミラも同じスライディングをするので、師弟〜!と思った。


そして熊倉さんの側近がマジでヤバい。見ながらこんなの狂う!!全オタクが好きだろ!!と思った。殺陣の途中で口元を手で拭うのも、部下に向けて「殺れ」って首をかっ切るジェスチャーするのも、部下が従わないから女の顔を殴りまくるサドっぷりも、爬虫類っぽい冷たい目つきも、セクシーとしか言いようがない手招きも流し目も全部最高、そして殺陣がタイトでものすごい爆速!過去見た人でいちばん速いかもくらい速い。剣グルグルって回すとこ(説明ができん)信じられんかっこよさだった。一個だけ文句言うなら側近は後半しか殺陣がないんだけど、騎士団長VS側近もっと長尺で見たかった!!あとカテコで明日以降の宣伝をしてたとき突然土下座したりエゴサのマイムしてておもしろの波動を感じて驚いた。かわいさもあるんですか??怖い!!沼を感じる!!


真面目な話、これは前に演者が延々走り続ける駅伝の舞台を観たときにも思ったことなんだけど、演者がめちゃくちゃ身体的にハードなことをやっていると、本人のしんどさが役としてのしんどさと混じり合ってそこにリアリティが立ち上がってくる。もちろん身体は替えがきかないので細心の注意を払ってなされるべき演出だとは思うが、個人的にそういう手触りには抗えない魅力を感じる。マジですごい。汗をかいた分だけ生まれる説得力がある。


あとわたしはここ7年くらい梅棒をゆるく追っていて、壱劇屋って梅棒と客層が被ってる気配を感じてたんだけど、今回観てかなり納得した。使うスキルがダンスか殺陣かの違い、物語の作風の違い(梅棒はよりポップなので)はあるが、台詞がないぶんそれ以外の全て(マイムや表情)に情報をこめまくるのが共通している。村でのシーンとか同時にいろんなことが起きてて見切れない。人間って情報量多いんだなと思う。


最初に殺される敵将などをやってた、髪長めの背が高い顔がはっきりしたモブの人がすごい殺陣良かったんですけど、劇団HPに写真がなくてわからないので有識者の方がいたら教えてください!→小林嵩平さんでした!有識者の方ありがとうございました!

あと小柄な少年みたいな人(妹に助けられる兵士の片割れ)も村のシーンからかわいかったな。→酒井翔悟さんでした!


とにかく体験としてめちゃくちゃ良かったです。浴びた!という感じ。5作品連作らしいので2作目以降も観に行こうと思う。あと何とか予定の都合をつけて側近をもう一回観たい気持ちがある。欲望に忠実に生きたい。