言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

不穏でかわいくて優しい世界

くによし組「なんもできない」函波窓さんが好きなので先日観に行った。とてもよかったのでずっと最高って話をしてる。ネタバレしています。


めちゃくちゃよかった(2回言う)。初見の劇団だし、ギリギリまで行けるかわかんなかったから予約もできず当日券で滑り込み、どんな作風なのかも知らなかったんだけど、序盤からおもしろすぎて世界に引き込まれ、最後まで引き込まれたまま終わった。好きすぎる。もう1回観たいが観れないので、観れる人はわたしのかわりに下北沢OFF-OFFシアターに行ってください。21日までです。


今よりもかなり未来。ある雨の日、現場仕事をしている5人の男たちは寒さをしのぐために化石発掘作業員の待機所にやってくる。そこには最初から2人の男がいて、この7人の抱える事情やこの世界の状況が、彼らの会話や展開を通じてだんだんわかってくる。

まず世界観としては、長い戦争によって(おそらく核兵器放射線などで)人間の一部にツノが生え、ツノ有りの人間が差別を受けている。ハエや蚊は変異して巨大化し人間の肉を食いちぎる。また戦争自体が目的化し、同じ国の中の地域間で、徴兵されたツノ有りによる「ファイト」と言い換えた戦いを絶え間なく行い、その前後に派手なパレードやパーティーを行って国民のガス抜きをしている状況。またツノ有りの中でも、2本角や多角は更に1本角から差別を受けている。

 

この作品はかなり突飛な展開があるのに、それをスッと受け入れさせるのがめちゃくちゃ上手い。そこまでの会話でこの人たちは何か差別を受けているんだろうなというのをわからせ、そして登場人物が全員作業服にヘルメットの作業員姿なので、ヘルメットを皆が取ってツノが見えたときのアハ体験感が強い。同様に、化石発掘の作業員は2人登場するけど、実は片方の男(シバハラ)はもう1人の男の記憶で、その場には存在していないということが中盤でわかる。確かに他の誰とも会話してない!そして菊川さん演じるもう1人の男・ベラは、今はもう滅んだガストの配膳用猫ロボット(ベラボット)で、プログラムされているルートしか歩けない。最後、カンナミにプログラムを変更してもらったベラが真ん中の畳座の上に上がったとき、確かにこれまでずっと周りを歩いてるだけだった!とびっくりした。それをここまでまったく意識させない自然な動きなんだよな。畳座に上がっただけでカタルシスを感じさせる菊川さんもすごい。

ベラが外に出られるようになったところで、世界に影響はない。ファイトは続くしツノ有りは差別されているし彼らの大半は明日から戦場に行く。不穏で救われないが、同時にとても優しくかわいい話で、両方に振り切れているから逆にバランスが良い。後半のベラとシバハラの会話で、世界が異常になったら正常なことが異常になる…というようなやりとりがあるんだけど、それでいうとこの話に出てくる人々は皆多かれ少なかれ異常だが魅力的だ。80分観ただけで登場人物のことを全員好きになった…というかたぶん開始10分くらいで好きだった。てっぺいさんが末安さんのモノローグに肘の皮の話で割り込んできた時点でもう好きだった。おもしろすぎ。


上演時間は短めだけど、内容はぎっしり詰め込まれているので、自分が全部消化できているのかわからない。後半、ベラの回想内で今は亡きツノなしの同僚たちが交わす会話と、現在でのスエヤスとナガイの会話が並行して進み、その中で掛け合いが成立したりする。ここ全部受け取りきれてない気がするからもう1回観たいんだよな…スエヤスは誘拐の脅迫電話をかけるバイトをしていて、実はその電話先がナガイだと中盤でわかるんだけど、2人での会話の後にスエヤスが変声機で電話して、毎日電話して怯える娘の声を聞かせてやる、そうすればお前は娘を心配する父親でいられるだろって言うくだりがすごいよかった。ナガイは娘がいるけど、おそらく別に子どもを欲しいとは思っていなくて、夫であり父である自分の立場に押し込められ、生きるために自分を偽っている。そんな彼とスエヤスの間に、社会的立場から切り離された個の人間同士の友情のようなものが一瞬閃いた気がした。


個人的には、この内容の舞台を男性だけでやっているのが特に刺さった理由かも。この世界だとツノ有りは社会構造において地位が低く、女性と付き合ったり結婚することは難しいらしい。さらにツノ有りの中でも複雑な差別構造がある。そんな彼らが、男性同士で自然にケアし合う姿に救われた気がした。ツノ無しとツノ有りの“中間”であるナガイはツノ無し・ツノ有りどちらにもなれない半端な存在だから、偽物のツノをつけて多角だと偽っていて、その頭にスエヤスがそっと触れるシーン。二本角で痛覚がなく脱皮するカンナミをテッペイは異常者扱いするしひどい言葉も吐くけど、カンナミがいなくなったら嫌だと言って彼を助けるため奮闘するシーン。またベラとシバハラも、いかにも男性社会な発掘作業員たちの中で“姫”と呼ばれるシバハラが、同じくロボであることでマイノリティなベラに、刃牙やゴルゴを教材にして舐められない生き方を教えるシーン良くて泣いちゃった。それにしても芝原さんがかわいい。配信か台本売ってほしいな…。


ここからは単なるオタクの感想です。函波窓さん、本当にどの舞台で見てもサイコーに良い、そして出てる舞台が基本的におもしろくて選球眼がすごい(誰目線?)劇団普通で知って、シラノ、第27班、ダルカラ岸田、動物自殺倶楽部、今回と観てきたけど、全部いい。すごい繊細な出力をしていると感じる。でも個人的には本作がいちばん好き!挙動不審機械オタク(カンナミ)と関西弁の元気なヤカラ(ベラとシバハラのかつての同僚)、1作品で両方見れるの福利厚生じゃないですか?(厳密に言うと一瞬カンナミの皮をかぶったベラも演じるので3役ある)ありがとうございます。ちなみに同僚は関西に引っ越すって言ってたけど、カンナミの出身は関西だから、ワンチャン戦争で死んでなくてその子孫がカンナミだったりする?妄想しすぎてる?とにかく果てとチークも楽しみ。