言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

現実をフィクションにすること

フィスコットーネ「サヨナフ―ピストル連続射殺魔ノリオの青春」全然いいこと書いてません(主に脚本について)

 

この作品は元々永山則夫を知っているかによって受け取り方が違う気がする。前提としてわたしはほぼ知りません(アフトで池下さんが言ってたみたいに、4人射殺したということと永山基準という言葉くらいしか知らなかった)本当に脚本がぴんとこなかったというか正直苦手な作品だったんだけど、演者の演技はだいたいみんなうまくてみんな好きだった。

 

何が苦手だったのかの言語化ですが、ノリオの妄想の中とはいえ実在の殺人事件の被害者を狂言回しに使って犯人の人生を紐解くという構造がまず苦手なんだと思う。グロテスクだと感じてしまう。別になんでも不謹慎って言えばいいと思ってるわけじゃないんだけど、被害者サイドの方がこれに触れたらどう思うのか?ということが、4人が射殺被害者であるとわかる比較的序盤のシーンから、ずっと頭の端で気になってしまった。ただこういうことを言い始めるとわたしが死ぬほど好きな作品である「怪人21面相」も滋賀県警本部長の遺族が見たらどう思うんだという自己矛盾を抱えることになるのも理解しているので、これはシンプルに好き嫌いです。好きじゃなかった。厳密にいうとその悪趣味さを超えるほどの魅力を感じなかった、なのかな。

アフトでは永山則夫に対して過度に同情的ではない脚本という見方らしかったが、それもちょっとよくわからなかった。まあ実際死刑になっているわけなので何か変わるわけではないから描き方は自由だし、母親から愛されなかった育ち方や構造的差別が彼を凶行に向かわせたという面は確かにあって、特に構造的差別は現代社会にも通底して存在するという問題意識もわかるんだけど、ノリオに対して悲哀を見出そうとするのに入り込めなかったんだよな…もしこれが仮に母親を殺したという犯罪なら悲哀を見出すのはわかるんだけど。とにかく関係ないのに巻き込まれた被害者とその家族のことが気になって仕方ない。多分わたしが強固に死刑賛成派なのもあるのかもしれない。命は命でしか贖えないと思っているので…だって万が一自分の家族が同じ目に遭ったらと思うと絶対に死刑にしてほしい。演出も正直合わない点があり、特に少年ノリオがチャリ漕ぐのに合わせて現在ノリオが歌うくだりの感じが結構冷めてしまった(歌はうまいです)あとアフタートーク、伝えたい情報がたくさんあるのもわかるんですけど、それは当パンとかでもできることでは?と思うのでもう少し会話をしてほしかった。

 

ただ演者は本当に全員うまくて素敵だと感じた。池下さん、「十二人の怒れる男」で一度見たことがあったんだけど、やっぱり深みのある演技ですごくいいな。終盤獄中のノリオが4人を前にして語るシーン、池下さんの演技のおかげで初めて話に引き込まれた気がした。吉田さんは去年JACROWで見てたけどギリギリやりすぎないコミカルでかわいさのある演技が魅力的だなと思う。あと初めて見たんだけど小野健太郎さん素敵ですね。スタジオライフの方なのか。ノリオの姉の清水直子さんは「電信柱に水をやらなきゃ」の一言で狂気を感じさせて空気をすっと冷やしてたし、母の水野あやさんは最初いかにも貧しいながらに頑張って子を育てた母、みたいな感じで出てくるのに、だんだんエゴや多面的な人間らしさも見えてくる演技が印象深かった。