言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

わたしたちにできることはある

劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」(再演)感想。初演も見たのでその感想も貼っとく。あらすじ書いてあります↓

https://fusetter.com/tw/9RHN8Acm


初演の帰還不能点(今里さんが出ているから行った)が初劇チョコなんだけど、今思うと舞台一般としても劇チョコとしても変化球なとこから入った気がする。劇中劇自体はまあ見るが、演者がどんどん入れ替わっていくっていうのはあんまり見ない。初演の頃から理由を考えていて、セリフ量の偏りを避けるためもあるだろうが、場面ごとに同じ人物の違う印象を見せられる効果があるんだなと今回改めて感じた。東條英機近衛文麿松岡洋右を複数のキャストが演じるけど、そのときによって強調される側面が違う。たとえば東谷さんが演じる松岡と、村上さんが演じる松岡では前者の方が押し出しがよく、後者の方が追い詰められている印象がある。あと模擬内閣でやったポジションがやはり本役っぽく、それ以外の人が演じているとややふざけ感がある。柳葉魚さんが演じる近衛文麿とか、はわわ〜!って感じなんだよな(かわいいです)

再演で特に思ったのが、黒沢さん演じる道子が、無邪気に質問してるように見せながら実は最後のあの問いまで男たちを導いていってると感じ、一枚上手な印象をうける。あと演じ分けがすごい。道子から松岡の妻は別人ながら属性は地続きな感じなんだけど、その後近衛の妻になった瞬間「旦那様」の発声の切り替えで震える。


初演の感想にもよかったって書いてたけど、今回陸軍の城を演じる粟野さんがさらにめちゃくちゃよかったな…別に演劇やってる人間ではないからこの感想が正しいのかはわかんないけど、ものすごく演技がうまいと思う。城という人間を演じ、城が劇中劇として誇張して演じる東條英機を演じ、でも天皇から首相を拝命する瞬間は劇中劇じゃなくて本物の東條英機だと思ったんですよね。あの瞬間背景にある色々が何も見えなくなり、東條と彼が見上げる昭和天皇だけの空間になった。そういう強烈な引力があった。


終盤村上さん演じる木藤(外務省)と粟野さんの城(元陸軍)がぶつかるシーンで顕著だけど、この作品の中だと岡田の「わたしたちにできたこと」という問いかけに対して武官の方が己を省みる姿勢があり、文官の方がやや距離がある(木藤は出世コースに残った千田に対してコンプレックスを感じている様子も見受けられ、複雑な内面ぽいが)。武官は戦後所属組織を解体され、否応なしにも向き合わざるを得なかったこともあるだろうけど、この作品自体が(軍はもちろん無罪ではないとはいえ)太平洋戦争における文官の責任にフォーカスした作品なのもあるだろう。学校で習うような歴史においてあまり文官の責任って描かれないけど、実際には存在する。それは決して罪人探しをしたいということではなく、皆が自分ごととして戦争に向き合うためのひとつのアプローチなのだと思う。


ツイートもしたけど、追憶のアリランと帰還不能点をマチソワして思ったのが、どちらも「仕方ないと言うことの罪」が描かれている。戦争を直接的に知らない人間が増え、無責任な歴史修正主義がはびこっている今の時代に、あえてこれらの作品が上演されることには大きな意味があると感じる。仕方ない戦争なんて存在しない。わたしたちにできることはある。人間は自己を正当化したい生き物であるからこそ、過去を美化する甘い言葉に慰撫されてしまいがちだけど、歴史に対してまっすぐに向き合って受け止め、そこから学んで未来につなげていかなくてはならない、と強く思う。劇チョコはそういうストレートな軸を打ち出せるのが強いし、その背景には古川さんが史実に基づいて生み出した物語の強度があるんだろうな。あと4作品観るけど全部楽しみだし期待してる。


ここ2年くらいでいっぱい舞台を観て、基本的に脚本と演出が同じ作品の方が好きな傾向にあるんだけど、劇チョコだけはそうじゃないんだよな。戯曲読んで、必要最低限しかト書きがない!とびっくりし(自分の中の基準が野木萌葱さんなのもあるとは思うが)相互の信頼を感じた。帰還不能点だと、松岡と近衛それぞれの妻とのシーンであえて松岡近衛は客席に背を向けて顔を見せず、妻にフォーカスを当てるシーンの見せ方や、平沼騏一郎板垣征四郎の関西弁漫才が好きだな。初演より笑わせたいシーンのドタバタみが増していた気がする。城に体重全預けしてすっごい斜めになってる泉野(西尾さん)とか笑っちゃうわ。あと吉良役の照井さんだけ初演からキャス変なんだけど、溶け込んでいたし、公職追放で不遇な目にあった吉良の、過去より丸くなりつつも(ならざるを得なかったのだろう)やや鬱屈を抱えた様子が感じられた。照井さんは公演期間中毎日Twitterスペースをやられていて(前の他の舞台でもそうだったんだけど)その自ら発信して宣伝していく姿勢とても素敵だなと思っている。


照明が主張しすぎないのに良いな〜と思う。劇中劇に入る瞬間にパッと切り替わるメリハリや、道子と岡田演じる山崎が向き合うシーンで、初め分断された四角いスポットがそれぞれに当たっていて、そのあと2人が立って向き合うと2人を照らす光がつながる(道子が山崎に籍を入れてと言うくだり)のがよかったな。スペースでも話されてたけど、最後にひとつ残った椅子にスポットが当たって山崎という存在を示唆するのも。あと最後の模擬内閣でそれまでにないくらい照明が真っ白に明るくなるのが救い、人間の善さを感じて初演からとても好きなポイントだ。彼らの帰還不能点は模擬内閣で、それを反転させて改めてやり直す姿を通じて、彼らのこれからの生き方を示唆しているのだと思っている。