言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

演劇の原始的な形

スリーピルバーグス「旅と渓谷」感想。永島敬三さんが好きなのと、事前に上がっていた福原さんと成河さんの対談が面白かったので観に行った。

 

渓谷を上流から下流へ旅する人々の物語。キャスト4人が全部で27役を演じる。各々のメイン役としては下流へ向かう旅人のスラテジ(永島さん)、質屋のハリメ(佐久間さん)、ポーターのノシ(三土さん)、ガイドのタナカ(佐藤さん)。途中まではドタバタで笑いどころも多いが、その中でも「なごり門」という街の跡地に建てられた門は墓の比喩だし、タヌキの兄弟が死んだ父親を探すくだりでは具体的に死者を悼むとはどういうことかについて語られるなど、死や別れの要素が各所に出現する。


渓谷の旅人は10ヶ月の間に旅を終えなくてはいけないというルールがあり、途中の「5ヶ月の街」で、スラテジは渓谷より外に出ることができる特別な「緑の切符」を持っていることがわかる。そして旅の終着点が「10ヶ月の港」なことで、わたしはようやく渓谷の旅が、人がこの世に生まれるまでの旅だということがわかった。質屋のハリメはかつて緑の切符を持っていたけれど、外に出る航海の途中で海が荒れて切符を失い、二度と外には出られなくなってしまった。つまり生まれることができなかった子供であるハリメの、もう会えない親に向けた独白で終幕。


途中にも一時的にシリアスな場面はあるけど、ハリメがスラテジに外の世界への出方を教えてスラテジが去り、ハリメが独白して終わるくだりで急速にそこまでの色々が観客の中でつながると思うので、そこで人によって印象が大きく変わりそう。特に女性は過去の経験によっては結構食らってしまう人もいるのではないかと感じる。それが良いとも悪いとも思わないが…。

ここからは想像なんだけど、この舞台の世界は魂の世界みたいなもので、そこから一部の魂が人の世界に身体を持って生まれてくるのだろうか。タナカは古い名前といわれていたから外の世界は現代よりずっと遠い未来なのか。あとタナカが下流の街には多い名前って言われてたのと、ガイドとして自在に上流と下流を行き来していたことを鑑みると、下流まで来たけど切符がないか無くしたかで生まれそこない、目的地を失った人々が下流の街を作ったのか。わりと不条理だからあらゆることに説明がつけられるわけではないのかもしれないが。

 

個人的には歌ったり踊ったり変な動きをしたり、柿喰う客とはまた違いそうな感じでドタバタする永島さんが見れてシンプルに楽しかった。キャラクターがかなり独特な口調だったりするけど、それが寒々しくないのは演者の力なんだと思う。KAATの「冒険者たち」もそうだったんだけど、この作品も何をどんな方法で表現してもいいという演劇の無限の可能性を感じた。会場も永福町駅の上の屋外スペースだし、音楽は首から下げたラジカセ。照明もキャストが操作する。崖から落ちるシーンと列車のシーンで突然小さくなる(写真で作った人形を動かして表現)のは爆笑しちゃった。ネオン管で作ったカラフルな十字架を光らせて抱えて、踊りながら歌うシーンがよかったな。星がいなくなった人たちの光と言われてたのが心に残った。