言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

男が描く男だけの世界

柿喰う客「空鉄砲」

中屋敷さんの演出は「奇子」で観たことあるけど劇団は初見。チラシ見て面白そうだなと思ったら前売は売り切れてたんだけど、チケット譲ってもらえた。

 

大御所ミステリー作家・網代木冬(あじろぎとう)が風呂場で変死する。第一発見者は息子の弾倉介凪(たまくらかいな)と同居人(実は冬の愛人)である一旅御幸(ひとたびみゆき)。介凪は父親の死を映画化するためにオーディションを行うが、そこに現れた無名の役者・波瑠杉夏来(はるすぎなつき)は冬にそっくりだった。実は彼は御幸の異母兄弟で、癌で亡くなった実父の死に目に会うのを拒否した御幸への復讐のため、兄の愛する冬そっくりに整形し、振る舞いも完全にコピーしていた。介凪は夏来を主演にすると決め、より再現度を高めるために自分が演技指導をすると言い出し、屋敷で3人の共同生活が始まる。

セットも小道具も何もない素舞台。夏来が冬を演じる劇中劇と回想が入り交じり、飛び飛びの時間軸で、冬と介凪と御幸の出会いから今までと互いに対する感情が描かれる。並行して夏来と御幸の関係(夏来は父親が御幸の話ばかりして自分を見てくれなかったコンプレックスがある)も示される。最終的に、冬の死はヒートショックではなく腹上死であり、それは御幸が仕組んだものだった。元々冬と御幸が知り合ったきっかけは、当時新人役者だった御幸が冬の作品の映画化にキャスティングされたことなんだけど、御幸に一目惚れした冬の独占欲によって降板させられており、しかし御幸にとってその役は原作が自身の性の目覚めにつながった、どうしても演じたい役だった。老いて弱気になり心中を求めてくる冬に対し、意趣返しとしてその劇中で御幸が演じるはずだった役と同じ死に方を用意したのだった。そして介凪は父の死の真相を隠すことを決め、御幸を犯して隠蔽していた。映画は永久にクランクインせず、介凪は夏来に冬を演じさせ続ける。

 

ジェットコースターみたいな舞台で、登場人物の感情も激しく揺れ動くので濁流に押し流される気持ちで観てた。介凪は父親への強い独占欲を持ちつつ、同時に父親が愛した男である御幸への執着もある。御幸は冬の才能を愛していたから(また父親に捨てられ潜在的に父性を求めていたから?)金を受け取らず愛人関係にあったけれど、一方で老いによる冬の肉体の衰えには満足できず自分を抱いた介凪にかつての冬を見る。夏来は父親が自分を見てくれなかったのは兄のせいなのに父親を捨てたと御幸を恨みつつ、御幸の愛する冬になることで御幸を手に入れようとする(しかしそれは冬の血を引く介凪の存在により最終的に果たせない) という、誰も幸せにならないごちゃごちゃの感情のもつれ合いがすごい。

空鉄砲とは弾倉家当主に受け継がれる家宝の火縄銃なんだけど、射精できない男根のメタファーでもある。ラスト、介凪が父の後を追うよう御幸に迫り、撃てるように修理した鉄砲を渡す。御幸が銃を構えると介凪と夏来が歌い出し、曲終わりで御幸が撃たれたように吹き飛んで幕。カテコに御幸は不在で、一礼したあと立ち尽くす夏来を介凪が連れてハケる。この終わり方もいろんな解釈ができると思うけど、自分としてはストレートに御幸は死に、介凪は自分の求める父と今度こそふたりきりで暮らすということなのかなと感じた。

 

あらすじ的にはBLと言えばいいのか?観たのが昔すぎておぼろげな記憶ではあるけど、映画の「御法度」を思い出した。男性が描く男性しか出てこない世界って、女性が描くそれと明らかに質感が違うと思うんだよな。台詞の中で女性の扱いは悪いが、それは書き割りみたいな印象なので気にならない。作品自体めちゃくちゃフィクション!耽美!って感じの作品だから現実とは切り離されている。同じ台詞の繰り返しがたびたびあり、言う人間を入れ替えることで受ける印象が変化して、そのリフレインにも意味が生じる。時系列バラバラでどんどん進むストーリーを、観客を振り落とさないギリギリの速度でドライブさせ続けるのがうまい。涎が出てる、ってセリフから葬式の場面になるのとか良かったな。回想が重なっていくにつれ冬を演じている夏来なのか記憶の中の冬そのものなのか曖昧になっていくので、二重写しのような瞬間があり、演劇のこういう曖昧さが大好きなのでとても楽しかった。演劇でしかできないことのひとつだと思う。 あと、あらすじだけ見るとじっとりした作品ぽいけど(そして実際湿度高いシーンもあるけど)演者のハイテンションと適宜挿入されるふざけた台詞(「セックスしないと出られない部屋」とか…)でちょうどよい軽さもあり、そのバランスが上手いと思った。ふざけた後すぐシリアスに戻れる空気作りというか。

 

何より役者がマジで全員良い。まず御幸役の玉置さん。出てきた瞬間から陰のある美と溢れ出る色気に魅了される。ずっとベルベットのバスローブ1枚でセクシーすぎる。夏来役の田中さんは、昔梅棒で観たことあったんだけど、若者!って感じの夏来と、冬を演じているときの無頼っぷりの切り替えが凄い。背が高くて身体的に恵まれているのもあってパッと目を引く演技だなあと思う。そしてわたしは最終的に永島さん演じる息子の介凪がめちゃくちゃかわいくて…最初はうさんくさい男だな〜と思って見てたんだけど、狂気と内面のアンビバレンツな父親を求める子供っぽさ(とわたしは感じた)のバランスがかわいい。どうしようもないファザコン。どうでもいいけど「カイナ」って音で聞いてたときはずっと腕って書くと思ってたな。

 

個人的に、男性の性器への思い入れって女性より強いの本当に謎だなと思っていて、この作品でもそれを思い出した。性器の大きさが自分のプライドにつながるとか、作中にもあるけど勃起しなくなることで自分の自信も失ったように感じるとか、感覚としてわからなすぎるけど実際どうなんだろ、男性が見たらそんなことねえわ!って思うのだろうか。

上演時間約80分、ずっと喋ってどんどん進む舞台なので内容はぎゅっと詰まってる。演者もほぼ出ずっぱり。DVD欲しいけど男性器名称連呼してるから難しいのかなあ、出たら絶対買う…。今団体単位で好きになれる劇団を探しているところなんだけど、柿喰う客は好きになれるかもしれない。とりあえず他の作品を観てみる。