言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

2.5における作品と作風の親和性

舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」推し(磯野大さん)が出たので観に行った。過去シリーズは未見(絶対観た方がいいんだろうなと思いつつ全然時間がなかった)めちゃくちゃにネタバレしています。


今回がシリーズ7作目らしい。文豪異能バトル(?)という情報だけで行ったけど、登場人物がセリフで過去の因縁とかを説明してくれるので、今作から突然観ても最低限はついていける作りになっているのはありがたい。とはいえ後半は前作を見てないとさすがに初見ではわからない部分があり(ランドウって誰なの?と思ってアニメの公式見たらめちゃくちゃ好みのキャラデザの男が出てきた。多分少なくとも一作前の舞台は観た方がよかった)どうすることもできなかったけど、とりあえずざっくりしたあらすじ。理解が間違ってたらすみません。

異能と呼ばれる超能力みたいなものがある世界観で、舞台は架空の横浜。主人公・中原中也は、8歳より前の記憶がなく、自分の生まれに謎とコンプレックスを抱えている。生まれの秘密を知るためにポートマフィアとして働く中也のもとに、フランス人の暗殺王・ヴェルレエヌがやってきて、俺たちは兄弟だから一緒に旅に出ようと言う。実の兄弟ってわけじゃないんだけど、ふたりとも異能を制御するために作られた人工生命体だ(とヴェルレエヌは思っている)から中也を弟としているぽい。造られた命であることから、生まれてきたくなんてなかった!ととにかく生に苦しみを感じているヴェルレエヌは、その孤独を共有できる存在として中也を求めている。ここの「同じ孤独を持って並び飛ぶ彗星」みたいな台詞がすごくよかったな。

一方イギリスから来た刑事ロボ・アダムはヴェルレエヌを捕まえるために中也に協力を求める。最初はマフィアだから断られるんだけど、ヴェルレエヌが中也を自分のもとに来させるために中也の周りの人間を皆殺しにするというめちゃくちゃな計画を始めて、マフィアの仲間が殺されたので敵討ちのため手を組むことになる。ヤンデレなお兄ちゃんに死ぬほど愛されて眠れないってやつだ。

アダムと中也は次のターゲットになると思われた白瀬という少年(幼い頃に中也を助け、その後因縁がある)のもとに行くが、色々あって警察に逮捕され、警察で中也に更生するよう働きかけていたいい感じの刑事もヴェルレエヌに殺される。ヴェルレエヌを捕まえるための罠をはろうと、中也やヴェルレエヌの出生の秘密を握るNという科学者(刑事の兄)を訪ねるが、中也はNにはめられて一度監禁される。Nは中也から異能を引き剥がそうとして拷問にかける。ヴェルレエヌが中也を助け出すが、中也は同行を拒否し再度中也VSヴェルレエヌになる。実は中也の仲間であるマフィアの太宰治が、マフィアのボス・森鴎外の暗殺を防ぐために色々な情報を流してヴェルレエヌを操り、その間に彼を倒す準備を整えていた。追い詰められたヴェルレエヌは能力を解放して戦うが、中也とアダムが連携してそれを一旦は倒す。

最終的にヴェルレエヌを弟の仇と憎んだNが能力を暴走させる奥の手を使い、ヴェルレエヌは魔獣ギーヴルになり、アダムがそれを止めるために自爆。このアダムが自爆するくだり、腕を遠くに投げるのまで含めてベイマックスをめちゃくちゃ思い出した(そのあと腕に残ってたバックアップで復活するところも)でも止まらず、中也は自分が人間かどうか判定するための痕跡が消えてしまうという条件を受け入れ自分の中の異能を解放して魔獣を倒し、ヴェルレエヌは一度死ぬけど亡くなったかつての相棒が残した異能の力で生き延びる。

総合して、自分の生まれにとらわれ、自分は何者なのか?と苦悩していた中也が、事件を通じて自分が仲間に恵まれていること、ポートマフィアという居場所を見つけ、確固たる自我を築く話なんだと思う。今回本編が終わった後で日替わりのちょっとしたお芝居があり(あれも中屋敷さんが書いてるのだろうか)これも楽しみにしてたんだけど、千秋楽での中也が観客に語りかけるセリフがまさに主題だった。

アルバトロスの死に際とかアダムと中也の別れとか、ぐっとくるものがあった。あと、ヴェルレイヌが「シートベルトしろ、舌を噛むぞ」「軽いな、ちゃんと食ってるのか?」「自分の血を見るのは久しぶりだ」など、フィクションではめちゃくちゃ聞き覚えがあるけど現実では絶対に聞くことのない台詞をどんどん繰り出してくるのが面白かった。

中也もヴェルレエヌも重力を操る能力なので、プロジェクションマッピングとかで戦いを表現し、最終的にはフライングする。といってもジャニワみたいに飛び回るわけではなく吊り上げられるくらい(回転はしてた)だけど、後ろに羽や効果を投影するのはかっこいい!あと、ラストシーンの後にテーマソング?が流れキャラクターが順番に出て踊るのが、ストーリー展開に沿った形になっていてアニメのエンディングみたいで感情が揺さぶられる。1番で劇中殺された仲間たち(旗会)と踊った後、皆がはけて1サビ終わりでひとり残される中也の表情がすごくよかった。


総合して、2.5の場合は原作を履修していないと作品の良し悪しについては何とも言えないし言うべきでもないかなと思うので、演者の演技について。主演の植田さんは生で見たの初めてだけど、もう30代のはずなのにめちゃくちゃ少年ですごくいい。台詞も全部聞きやすいし、素直じゃないかわいさが滲み出てる。スキルがすごい。白瀬役の伊崎さんも、まず声質がよく通るし滑舌も良く、白瀬のときは等身大のちょっと未熟な少年で、アルバトロスとの兼ね役がしっかりまるで別人に見えて良い。獅子王の子だよね?演技上手いんですね。ヴェルレエヌの佐々木さんはさすがの貫禄がある。太宰の田淵さんとNの久保田さんが初日はちょっと滑舌と台詞が危ういなと感じるところが多くて、Nとか特に言いづらそうな台詞多いし大変だとは思うんだけど、キャラの性質(狂気系)ゆえに噛んだり詰まったりすると観ている側としては冷めてしまうので、頑張ってくれ…と思っていたが、楽ではほぼ完璧になっていたのでよかった。森鴎外の根本さんは飄々としたかわいさがあって、日替わりの心臓も強いし、説明台詞も多いけど聞きやすかった。あと個人的に加藤ひろたかさん(ピアノマン、村瀬刑事、広津柳浪の3役)がめちゃくちゃよかった!!役の演じ分け、スポットが当たらない瞬間でも気を抜かない細かい演技、爆速長台詞の迫力、日替わりの遊び心…あと顔がすごくかわいい。


ここから推しを褒め称えるブロックになります。推しはユーロポールから来たロボ刑事のアダム・フランケンシュタインという役なんだけど、初日からほぼ完璧な演技で、マジで何も不安がない!!と思った。明瞭なセリフ(ロボだから絶対噛んだり詰まったりできないと思うんだけど、わたしが見た6公演では1箇所「重要人物暗殺」の「暗殺」を抜かしただけでほぼずっと完璧だった)、細かなリアクションや移動でも油断しないロボらしさ(特に他のキャストが移動するときそれを追う首の動きが一定の速さで滑らかでピタッと止まるのと、まばたきの少なさと、無表情で首を傾げる反応と、打撃を受けたときの痛みは全く感じなくて衝撃だけが跳ね返る感じのリアクションと、T-1000みたいな走り方)、でも同時に最先端のロボだから感情模倣モジュールがあって、それによる言葉が時に人間より人間らしい。中也のことで白瀬にブチ切れるシーン、あれは全てを知っていて言えるアダムだからこそできることですごく清々しい、人のために怒れるロボなんだよな…全体的に太宰と中也は元々シリーズ内で犬猿バディなんだろうと思うんだけど、同時にアダムと中也がバディになっていく話でもあって、それがめちゃくちゃかわいくて胸熱でよかった。


見せ方としては、アンサンブルが6人みなさん踊れたり身体がきく方々で、パーツの小道具(車のハンドルとか、ビリヤードのシーンでは球の被り物とか)とアンサンブルの動きだけでシーンを成立させるところが結構多く、それがおもしろかったな。舞台上は半分くらいから階段になっていて、突き当たりは開閉するのでそこから飛び降りたり階段ではけることもできる。特にセットはなくてシンプルなので映像も映せる。全部が原稿用紙の柄になっている。


今回初めて自作を見たことある演出家の2.5を見たので、作風みたいなものを感じられる気がして興味深かった。言ってもわたしは柿はまだ前回の「空鉄砲」とDVDで「美少年」しか見れてないド新規なんですが、シンプルな舞台、一瞬だけパッと当たるスポットでの見せ場、素早い場面転換、爆速長台詞の台詞回しなどに共通点を感じた。あと文ステって1作目から全部中屋敷さんが手がけてるんだけど、なんとなくその理由がわかるような気がした。男男巨大感情話だし、世界観的にも難しい単語の長い説明が多くなるので、登場人物が言葉の圧をぶつけてくる柿喰う客の作風につながるのかもしれない…と思った。2.5の演出を誰に頼むかって、そういう原作世界観との親和性みたいなものをプロデューサーが見極めて決めるのかな。その仕事楽しそうだな。当たらなかったら怖いけど。