言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

小さなそれぞれの地獄

DULL-COLORED POP 「TOKYO LIVING MONOLOGUES」を観ました。ひとことで言うとヤバ舞台だった。内容や結末にめちゃくちゃ触れています。

劇場は地下で、階段を降りていくと入口で仮面を貸し出される。配信があるから映り込み対策かな〜と思いながら色々ある中から狐の面を受け取って中に入る。本当に狭くて、座布団と丸椅子合わせて20数席。四角い空間の四隅が演技スペースになっていて、4人の男女の部屋が再現されている。4部屋中3部屋には既にキャストがいて、思い思いに過ごしている。 16台のカメラで様々なアングルから映像配信されていて、見切れがあるので会場にいる客もZOOMも立ち上げておくよう案内がある。外で入場案内をしていたキャストが帰宅してきて開演。

各役ともWキャストで、わたしが観た回は東谷さん、宮地さん、佐藤さん、大内さん。東谷さんと佐藤さん、宮地さんと大内さんが劇中配信を通して繋がる場面がある。また東谷さんと宮地さんは隣同士の部屋に住んでいる設定。

 

(東谷さん):陰謀論にハマっている右翼の中年男性。「倭史道」という秘密結社?の名前をたびたび出す(ちなみに会場のWi-Fiパスワードがwabudo、芸が細かい…)大量の本がある部屋に住んでいて東大卒を自称している。ちなみに正の部屋の壁にはいっぱい賞状が貼ってあるんだけど、谷さんの本物のやつが混じっててびっくりした。たびたびどこか(家族?)に電話をかけている。リングフィットや飲尿で健康に気をつけている。日本刀を所持していて大根を切ったりする。

(佐藤さん):バツイチで寝たきりの親の介護をしているアラフォー女性。K-popアイドルのオタク(母性と夢女と性欲をごちゃまぜにしたような推し方)ピンクのクマのぬいぐるみを推しの名前で呼んで話しかける。エロいライブ配信を収入源にしている。部屋はゴミ屋敷で、アイドルの写真が大量に貼られてる。あと2リットル紙パックの酒と水のペットボトル。

(宮地さん):ブラック企業で働く社畜の男性(残業月150時間手取り15万)学歴や資格がなく転職に踏み切れないでいる。二次元美少女とプロレスのオタクで、部屋にフィギュアやコスプレ衣装がたくさんある。女装癖(美少女同一化願望?)プリキュアになりたい。

(大内さん):ASMR配信をしている無職の若い女性。部屋もやたら大量に下着が干してある以外は比較的普通だし、序盤この中だといちばん一般的な人に見えるんだけど、終盤彼女も既に陰謀論にハマっていたことがわかり、この人がいちばん闇が深いかもしれないと思う。目が据わってる大内さん、怖い。

皆自室にひとりでいるので、基本的に演技は独り言と配信での会話。各々が各々の地獄みたいな日々を生きている姿が描かれる。直接の会話はないけど正と恒が騒音で壁ドンし合ったり、各々がやっている行動が重なり合って音楽セッションみたいになるくだりがあったり、うっすらとつながっている。劇中で「号令は聞こえる」から始まる台詞が複数回繰り返されるんだけど、中盤麗がそのセリフの後包丁を持って隣の部屋に行き血まみれになって帰ってきて、介護殺人が示唆される。後半正と麗、恒と唯が配信を通じて直接繋がり、正と唯は陰謀論の演説を始める。最初は冷めていた麗と恒だが、話が自分の身近のことになってくるにつれ引き込まれていく。ここでスマホの音量を上げるように言われ、ZOOMの画面に秘密結社「倭史道」からの焼肉屋を襲撃するというメッセージが流れる。倭史道は画面の向こうから襲撃に参加するように扇動し、参加者に顔を隠して集まるよう指示する。ここで入場時に渡された面をつけている自分自身も襲撃の参加者として劇に組み込まれていることに気づく。

ここで正と唯が言う、「きみには人間らしく生きる権利がある」という言葉自体は本当にその通りなので、スタートは合ってんのにゴールがなんでそうなるんだ!!という気持ちになる。いや合ってるとか合ってないとかは他人が決めるものではないし、そんなこと言い出したらわたしだって他人から見たら狂ってるのかもしれないとは思うんだけど、人は自分の尺度でものを見ることしかできないので…。しかし倭史道の扇動に従って部屋を飛び出す彼らは、そこまでの地獄のような日常からどこか救われているようにも見える。

ちょっと作品からは話ずれるので私の個人的感想ですが、この間の選挙で共産党のボランティアをやってて(党員ではないが考えがいちばん近いため)思った以上に日本人の共産党アレルギー的なものを感じたんですよね。この作品でいうと正と唯が陰謀論にハマった経緯はわからないが、恒と麗の地獄については公的なサポートである程度解消されうる・されるべきだと思うんだけど(親を施設に入れるなり、退職して失業保険もらいながら職業訓練受けて転職するなり)新自由主義の隆盛により自己責任論が浸透し、政府や社会構造に対して怒ることを許されない(わけではないんだけどそう感じている)人々のひとつのはけ口として陰謀論が出てきたのか、それとも政府や社会構造に怒らせないための目くらましとして陰謀論が作られたのか、まあこれは鶏と卵だけど、本来怒るべき対象は別にいるのでは。

 

この作品を悪趣味だと感じる人もいると思う。特に東谷さんの役、ワクチンで5Gに接続とかセリフが全部SNSで見かけるヤバいやつのそれすぎて…本人はごく真剣な場面なんだけど、炊飯器に向かって小室圭!眞子!!ってキレるシーン本当にあまりにも面白くて…笑っちゃいけないと思うほど笑ってしまうのあるじゃないですか…もう最後耐えきれなくて爆笑しちゃったけど…。わたしは現状それなりに稼ぎと学歴があり、仕事も家族も今のところ特に問題ない境遇なのは自分の幸運だという自覚はありつつも、たぶんネトウヨとか陰謀論にハマる人間をどこかで見下しているし、正直それをあまり悪いとも思っていない。自分の中にあるそういう感覚を取り出して見せられた感があって、笑った後に何となく居心地悪くなった。

演劇界隈って、ファンも含めどちらかといえば左寄りの思想の人が多いと感じる。わたし自身もそうなんだけど(別に左!と自認しているわけでもないが、今の社会の分類においてはそうなるらしい)だからこれをマジのネトウヨの人が見たらどう感じるんだろうなと思う。怒るんだろうか?正直観ていて若干いじってると感じた瞬間もあって、だから趣味が悪いとも思うけど(公演の紹介でアングラって書いてたのはそういうことなんだと思う)ただ消費しているだけというわけでもなく、彼らを掘り下げて描くことでその先にある理解へ手を伸ばそうとしていると感じた(意見に同意できなくとも境遇の理解はできると思うので)これが完全なリアルということではもちろんないけど、自分にとってインターネットの中の怪物である存在が少しだけ人間に思えた。谷さんめちゃくちゃヤフコメ読み込んだらしいし…(気が狂いそうだなと思うが)

 

とにかくまず美術がすごい。各部屋をパッと見ただけでどういう人間なのかがわかり、かつ実在しそうなリアルな手触りもある。さらに狭い会場なのでキャストが劇中で肉を焼いたり消臭スプレー?をまいたりすると匂いが届く。さすがにゴミの匂いはしないけど、なんでしないのか不思議になるもんな。

ZOOMでの並行配信の仕掛けはコロナ禍で舞台を配信することが以前よりも一般的になったからこそ生じた表現の形だと思うし、よくこんなこと思いついてなおかつ実現させるな、という気持ちがすごい。そしてこれをやりきる劇団員もすごい。皆近くで見てても全然目が合わないんだけど、特に東谷さんは完全にキマった目をしている。基本的に一人芝居で長台詞だし支離滅裂なセリフも多いのに、全員ちゃんと聞きやすい。 宮地さんのプロレス実況ごっこのシーン好きだったな。「あたしって世界一不幸な美少女なんだわ」はおジャ魔女どれみですね。ひとつよくわからなかったのは恒と唯が配信で会話するときに、恒が呼ぶ名前は唯ではないし、唯が呼ぶ名前も恒ではないんだけど、あれはこの世界に存在する様々な彼らの表現なのか?わからない。前半特典で台本もらえて嬉しいのですが、1ページだいたい全部恒が観てるエロアニメの台詞書いてあるくだりとかあって、そこまでやるか!と思った。ディテールを作りこむ気概がすごくない?