言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

同じ月を見ていた

劇団青年座「ある王妃の死」

台詞の聞き取りやすさとかを重視するので青年座の俳優陣の芝居がかなり好みな気がするし、シライケイタさん脚本ということで楽しみにしていたのに、当日会場をシアタートラムと間違えて遅刻した、芸劇だよ!!バカすぎる…本当に気をつけよう…。

 

日清戦争後、日露戦争に繋がっていく乙未事変を題材としている。閔妃の息子である世子(須田さん)を狂言回しに、物語上の主人公は綱島さん演じる三浦梧楼。軍人である三浦はその「まっすぐさ」を買われ、外交は専門外だが朝鮮国に特命全権公使として赴任。朝鮮王朝の実権を握る王妃・閔妃はロシアに接近しており、対立の末、朝鮮半島でロシアの勢力が強まることを恐れる三浦たちは、先王・大院君を担いだクーデターを起こし閔妃を殺害することを決める。描かれるのはクーデターの直前までで、それ以降のことは世子が台詞で説明して終わる。本筋とは何も関係ないけど須田さんめちゃくちゃ声が若くてびっくりする。少年じゃん。

 

ストーリーとしては日本と朝鮮どちらにも極端には肩入れしていない描き方だと思うんだけど(朝鮮王朝側にも身分制度とそれによる差別があり、それを壊したい平民階級のボムソンがクーデターに参加するくだりなども描かれているので、完全な無辜の被害者ではないと思う)おそらくこの事件自体の日本での認知度が低いと制作側が認識しているのと、同時にきちんと史実的な流れを説明しないと曲解されるリスクのある題材なため、説明的台詞がかなり多い。故に登場人物個々の人間性や心の動きはあまり見えず、物語が淡々と進んでいった印象がある。その中で大院君(津嘉山正種さん)と、彼を権力の座に担ぐために交渉役を担う右翼浪人・岡本(佐藤祐四さん)のシーンは、唯一登場人物の人間性が滲み出ていると感じられて好きだった。全体的に岡本のキャラクターがすごく良くて、エリート軍人の楠瀬に対して俺もお日様の下を歩きたいと吐露するシーンも好きだったな。

 

特にどちらにも肩入れしていないと書いたけど、他国に内政干渉や侵略を行うのは悪である、という価値観の前提は存在していると思う(当然のことだが)そのため「未来の日本のため」を掲げて閔妃殺害に突き進む三浦たち日本側の描き方は時にグロテスクだ。久留飛さんが好きなんだけど今回マジで嫌な役だったな!房子に「女だから参加できなくて残念ですね!」って煽るシーン、二重のソウジャナイ感があって凄かった。ただひとつ違和感を覚えたのは、国粋主義に逸る日本側の男たちと対置されて描かれるのが高宗・閔妃・世子の一家族で、閔妃の「聡明なひとりの女」「家族と静かに暮らしたいだけ」という側面のボリュームが多い(多く感じた)ことだった。閔妃は同時に国家の実質的最高権力者であり、訓練隊の解散やロシアと結ぶ決断も彼女が下している。公としての日本側の男たちと、私としての閔妃一家を対置するのはちょっとすわりが悪く感じてしまった、だってそうしたら三浦だってきっと家庭では良い父親なんじゃないの?って話になるじゃん…為政者としての彼女らを対置するべきなのでは?という気持ちがやや残った。三浦と閔妃が月を見て抱く感想が同じなのは、房子のセリフにあるように話し合いで分かり合える未来もあったかもしれないことを示唆しているのだろうけど、そこも疑問はある。

 

観たのが2日目で序盤だからもあると思いますが、ちょっと台詞回し早すぎないかと思うシーン(めちゃくちゃ頑張らないと聞き取れない)があった。逆に一瞬変な間を感じたりもしたので、後半観たらもしかするとまた印象変わるのかもしれない。

 

セットはかなり好きで、模様になった木枠の内側に紗幕を貼った囲いが舞台中央後方にあって、公務中の閔妃はその御簾の中にいるからよく見えないんだだけど、後半それが開いて生身の彼女が出てくる。あと音楽がチェロの生演奏なのも緊張感があってよかった。