言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

あまりにも迷いの森

「奇蹟 miracle one-way ticket」探偵と助手のコンビものと聞いて好きそうだったので観に行った。

びっくりするほど何も褒めてません。


七竈という大分の村にやってきた天才探偵・法水連太郎と、それを追ってきたワトソン役の脊髄神経外科医・楯鉾寸心。法水は開幕時点で崖から転落して短期記憶を喪失しており、依頼人が誰かもわからない状況。おそらく依頼人と思われる老事業家カンサイ(名前の漢字失念しました)は行方不明で、その孫娘のマリモとともに、ふたりはカンサイを探して迷いの森へ分け入っていく。


法水と楯鉾の掛け合いのまどろっこしさ自体は新本格ミステリみたいで結構好きだったし、あの回りくどい台詞をちゃんと客席に聞き取れる形で届けられる井上芳雄さんと鈴木浩介さんはすごいと思う。特に開幕ひとりで狂言回しっぽいことをするときの鈴木さんはすごく良い。

ただストーリーが全然面白いと思えなかった…まず記憶喪失の名探偵自体よくある設定だなと思うし、第四物質プラズマという存在をご都合主義な感じで出し始めた時点でかなりうーんという感じになってしまった(あのプラズマの要素必要か?マリア出現を騙るならホログラムの技術だけでよかったのでは)回想内の修道女が自殺をほのめかした時点で何らかの復讐なんだろうなという想像がつく。井上さんが唐突に歌う演出(しかも3曲も)はファンサービスだな〜という印象が拭えない。別にファンサービスが悪いということではないんだけど(歌は実際さすがにうまい)唐突にねじこまれると、主演を見せるための舞台なんだなという所感にはどうしてもなる。ジャニーズ舞台で体験したことがあるやつです。あと最後にマリモが突然サックス吹くの何だったんだ。

全体的にキャラの内面が全然感じられず、特に終盤に法水が世界で苦しむ人々の涙について語るくだりは唐突さが先に立って困惑した。ここまでそんな聖人ぽい人格の印象まったくなかったんだけど…なんか上っ面のまどろっこしいやりとりに尺を割いているせいか個々の人格が全然見えてこない。その中で鈴木さんの楯鉾だけは、テンプレなサイドキック感はややありつつもまだ人格が見えた気がした。

 

あとストーリー全然よくわかんなかったんですけど、みんなわかってるんですか?牧師とマリモはプラズマとホログラムによってマリア出現の奇蹟を偽装し、マリア信仰の隆盛におののくバチカンの転覆を目論んでいる、それはかつて奇蹟と認められなかったことで自殺した修道女の仇を討つため、ってのはわかるんだけど、結局法水を呼んだのは何のため?依頼主はカンサイでいいの?カンサイは今どこにいるの?あと法水を突き落とした男って牧師?牧師とマリモが結婚しようとしてるってのも途中でさらっと言われてたけど何?自分なりに解釈しようとすると牧師=カンサイで、劇中で言われてるようにマリモとは血のつながりがなく孫じゃなくて恋人として愛してる(だから結婚できるプロテスタントに改宗した)ってこと?怖…(牧師とカンサイのビジュ違ったから全然違う気もする)別に舞台だから全てを説明しなくてもいいと思うけど、あまりにも消化不良の感があって作り手側の自己満足に感じる。

マリモが自ら迷いの森に案内したのに、最後銃を突きつけて帰って!って言うのもよくわからない、森に置き去りにしようと思ったけどふたりが予想外に洞穴までたどり着けちゃったってことなのかな。正直単調な展開なので眠い瞬間があり、何か大事なことを聞き逃してたらすみません。もうちょっとバディもの及びミステリーとしての面白さや腹落ちを期待していたので結構残念だった。脚本家も演出家も初見だったので今後の参考にします。

あと客の年齢層が思ったよりかなり高くてびっくりした。頭の鈴木さんの一人芝居、客席に語りかける口調ではあるんだけどリアクションしてる声が数人聞こえて、嘘でしょ…とビビったがその後は大丈夫だった。

 

唯一いいなと思ったのはバチカン奇蹟認定員と神父と修道女のシーン、あそこだけこれから何が起きるんだ?と思ってワクワクした。あと秋田弁がめっちゃうまい。癖の強いゾロアスター教徒の認定員、出番短いのにインパクトあったな。

マリモ役の方の演技、別に悪くはないけど正直この並びだとひとりだけやや微妙だから、多分何らかの人なんだろうな…何だかわかんないけど…と思いながら見ていて、終わってから調べたら元乃木坂の人だったので納得した。

 

舞台美術は前方の客席を削って広く作っていて、後ろのスクリーンに流れるパラパラ漫画みたいなアニメはレトロでよかったけど、一場は上手側のセットが高いので上手の端だと映像がやや見切れる。セットが全部書き割りっていうか漫画の立体化みたいなデザインで、独特な雰囲気だともいえるけど好みとしてはあんまり好きじゃなかったな…もっとシンプルかもっとリアルかの方が好き。