言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

とけない、溶けない、解けない

♭FLATTO「とけない」閉館後の水族館を舞台にするという面白い企画。エリア51の神保さんが作演で、先日観た作品がよかったのもあり行ってみた。チケ代はやや高めの1万円だけど、水族館に前もって入れるのでその入場料込みと考えればまあわかる。開演前に大量のイワシとかエイとか見れて楽しかった。


登場人物は女子高生3人。水生生物が好きなユカ、バスケ部キャプテンで活発なユノ、写真部でオタク気質なアイ。元々はユカとユノが親しいんだけど、水族館でたまたま出会ったユカをモデルにしたアイの写真が入選したことから関係が変わっていく。最初は学生時代にありがちな友情における独占欲の話かと思ったら、完全に恋愛で、ユカはユノを、アイはユカを好きだと明言されている。そしてユノもユカを好きなんだけど、同時に家が貧しく教育熱心な両親から人生を規定されているユノには恵まれた生まれのユカを妬む気持ちもあり、結局ユカから離れることを選ぶ。大まかなストーリーとしてはこんな感じ。アイテムとして購買のしろくま(アイス)があり、争奪戦であるしろくまを食べたがるユノにユカはいつも付き合わされている。アイはフタの裏に「好き」と書いたしろくまをモデルの礼としてユカに渡すが(ここ、いつもしろくま買おうとしてるって気づくくらいアイはユカを見てるんだよなあと思う)実はユカ自身はしろくまが好きではなく、それを聞かされたアイはユカからと伝えてユノにそれを渡し、さらに放課後ユノはそれをユカに突き返す。数年後のユカはその容器を大事に取っていて、「好き」はユノが書いたものだと思っていることをアイは聞かされる。「とけない」は絡み合った人間関係が「解けない」であり、同時に思い出の中にあるしろくまがもう二度と「溶けない」でもある。個人的にはラストシーンはあくまで夢なので無かった未来だと思っているけど、人によって解釈分かれそう。


水族館を会場として利用するのは単純にワクワクするし、ずっと薄暗いクラゲの水槽を背にして演技していて、ラスト精神が不安定で入院しているユカの夢の中の光景として3人が水族館にいるシーン、客席後ろの幕を引き開けて反転し大水槽を背景にするのは、まあ想像の範囲内といえばそうだけど視覚的なインパクトが大きくて良かったと思う。ただ劇場ではないので照明や音響はやりようがない。音楽はスティールパンカホン、オーシャンドラムなんかを利用した生演奏で学校のチャイムや着信音なども表現していて良かったけど、照明はどうしても難しいな。あと傾斜はないので、席によっては全然見えなそう。その辺は非劇場の難しさだなと思う。


まだ観るの2作目だけど、神保さんは客席に伝わりやすい範囲で台詞にメタファーを仕込むのが上手い印象がある。今回も演者は人間キャラの他に、そのキャラのイメージと結びつく水生生物の2役を演じ、水生生物との会話という形式で自分の内面を語るくだりがある。家が貧しくたくましく生きるユナにどんな池でも生きるコイのイメージを与え、同時にユカからの悪意のない鑑賞的な視点(池の鯉に餌やるみたいに)を示したり、ユカにクラゲになりたいサンゴのポリプ(幼体)というイメージを与え、背景のクラゲ水槽を生かしつつ成体になるためにどんどん食べる、という台詞から過食症につなげてどきりとさせたり、おそらく水族館という場が先にあっての発想なんだと思うけど、いっぱいそういう遊びを入れている。

総合してやりたいことは全体的になんとなくわかる気がするし面白い。ただ演者の演技が演劇的すぎるというか、会話のキャッチボールではなく決まった台詞を言っているという印象が強く、正直やや入り込みきれなかった。全員初見ですが、3人の中だと安倍さんがいちばん良かった。ちょっと昔の蒼井優みたいな雰囲気の顔立ちだ。村田さんは台詞言うときに力こめすぎではと思うところが多かった。佐藤さんはハスキーな声が印象に残りつつ、なんかちょっとアニメっぽい演技だ…と思ったら声優さんなんですね。だからなのかな。