言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

支配被支配の三すくみ

壱劇屋「戰御史」感想。8月に観た「憫笑姫」でアクションモブやってた小林さんの殺陣がよくて、岡村さんとW主演と聞いて楽しみにしてた。全部ネタバレです。


セリフがない殺陣芝居なので、細かいストーリーは観客の解釈次第な部分があると思うけど、とりあえず台本と突き合わせて自分が理解したあらすじ。戦をしているらしい世界(主人公・表助たちの軍である帽子をかぶった勢力と、かぶっていない敵勢力がある)表助と仲間の後助は行軍の途中で雨に降られる。表助は屋敷に迷い込み、ろうそくを持った謎の男に出会う。最初は友好的に見えた男だが突然攻撃してきて、その場にあった武器を手に取り応戦した表助は意識を失い、過去の記憶の幻覚を見る。違う武器を触るたびに(サーベル→死んだ仲間、長巻→かつて倒した敵の野武士、銃剣→かつて倒した敵の女首領など)新たな記憶の断片が見え、だんだん話がわかってくる。表助はおそらく二重人格で、意識を失うことで見るものすべてを殺すバカ強いバーサーカーの別人格(これがろうそく男)と入れ替わり、鎮静剤を打たれると元に戻る。表助自身はそれを知らず、後助が彼を操っていた。だから後助にろうそく男は見えず、表助とろうそく男の戦いは身体の主導権争いである。後助は表助を始末しようと手勢を集めていて、追い込まれた表助はろうそく男と代わって乗り切ろうとするが拒否され、精神世界の中で自殺し、身体をろうそく男が奪い、後助を殺そうと追う。ここ、そこまでの殺陣を総ざらいしながら追っかけるのがとてもすごい。最終的に後助が薬を打って入れ替えても、表助もろうそく男も一致して後助を追ってきて、観念した彼を斬り殺す。ラストは冒頭と同様雨の中をひとりで歩く表助が屋敷に迷い込み、ふたたびろうそく男が現れて刃を交わす瞬間で暗転して幕。終わり方かっこいい。


この作品は壱劇屋の5ヶ月連続公演の4作目なわけですが、事前に劇団Twitterで、ここまでの作品とは毛色が違う的な投稿を見かけていて、確かに全然違う。ウェットないわゆる「人情」要素が全然ない。ずっと渇ききっている。そして繰り返される暴力、戦闘、殺戮。めちゃくちゃ好き!!!


これは支配と被支配の話だと思うわけです。序盤から表助は戦いの場で意識を失い気づくと敵が倒れているという描写があるんだけど、後助は笑顔で肩を叩いて労い、彼を軍に迎え入れる。主従ではなく対等なんだろうけど、表助は精神的に後助に支配されていると思うし、だから後助の前で膝をついて縋る。でもそんな表助を始末しようと冷酷に刀を振る後助は、一方で表助の別人格であるろうそく男をコントロールできておらず、女首領との戦いの際には一瞬殺されそうになっている。そしてろうそく男は表助の従人格なので、あくまで彼が意識を失わない限り表には出られず、身体の中で隷属している。三すくみのかりそめの安定がある。


これは想像だけど、後助が表助を便利な道具として使いすぎたことによってろうそく男の自我が強まってしまい、表助に対して主導権争いを仕掛けたのではないか?そして争いの結果(争いは物理的な殺陣でもあるし、表助からすると何も知らずに仲間だと思っていた後助の真実を知らされることによる精神的揺さぶりでもある)表助がろうそく男に一度身体を明け渡した(精神世界での死のシーン)ことにより、両者間の主従構造がなくなりフラットになった。後助を殺すという目的の一致によって一時共闘したふたつの人格が、永劫終わらない主導権争いを続けるというエンドなのかなと思う。


もう本当に野口オリジナルさん演じる後助が良すぎる。岡村さん演じる表助よりも小柄で知略型の優しげな後衛っぽい登場から、過去が紐解かれる中でだんだん見えてくる冷徹さと怖さ、そして終盤で表助がろうそく男になってからの一転して追われまくって怯える表情…こんなに見たいもの全部見せてもらっていいんですか??って感じだ。階段の上でろうそく男に詰め寄られるシーンの怯えてこわばった顔!あれだけアクションしながらも細部の演技と表情で細かい心情まで客席に届けてくるのがまずすごいし、あとめちゃくちゃ正直に言うと色気が超すごい。色気って何なのか説明するの難しいけど、個人的には「足掻いてる顔が見たい」な気がするんですよね…だから終盤ありがたすぎた。あと後助の最期が客席に背を向けて膝をついて武器を捨てる姿なのがすごい好き。野口さん、今年前半にグリマダで見たときも良い意味でうさんくさい役で好みだったけど、セリフゼロでも素敵。


岡村さんの表助は良い意味で何も知らない主人公が似合っているし(クライマックスで後ろに下りる垂れ幕のイラストは髪を結んでいるので外見的には表助なんだと思った)、小林さんのろうそく男は戦うとき顔を撫でて満面の笑顔に変わるのがすごくザワザワする。ろうそく男が後助を追うシーンの殺陣、大型肉食獣が獲物を追っかける姿そのものって感じの野生みだった、運動神経がぶちぬけてませんか?腰くらいの高さの台に手使わず垂直跳びで飛び乗ってた気がする。あと主演ふたりともやってた、左右から台に挟まれて飛び上がって回避するやつすごすぎん?ヒヤヒヤするわ。


殺陣がめちゃくちゃ多いんだけど(どの作品も多いが、その中でも飛び抜けてる印象)そこに派手な見せ方はあるけどポップさはあまりなくマジの殺し合いって感じで、顔の皮剥いだりエグい瞬間もあるのが、作品全体の影のあるトーンとも繋がっている印象でとても好きだった。なんか憫笑姫がマンガ、賊義賊がアニメだとしたら邦画っぽい印象(心踏音は見れてない)それも白黒のやつ。なんかこう書くと陰鬱な感じに思えるかもしれないが全然そんなことはなくて、カラッと爽快感のある乾いた暴力なのでみんな観たらいいと思います。わたしももう一回観たい。あと終演後に頭爆発しそうになってるタイミングでおかこば対決(劇団員チャンバラ合戦)を見ることになり、温度差で情緒がおかしくなった。劇団って家族みたいでいいね。