言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

かりそめのスーパーマン

劇団スポーツ「怖え劇」

ダルカラのWSに参加したときに内田さんが面白い方だなあと思ったのと、タイトルに興味を持って行った。後から見たけど「ハラスメントコメディ」というキャッチコピーなんですね。


ある劇団の稽古場。主人公の真隈と同期の結木は新人劇団員。古参劇団員の工藤と矢野、しばらく休団していたが演助として今回から復帰した金丸、脚演の尾上と共に新作の稽古中だが、尾上のダメ出しは厳しく稽古場の雰囲気はよくない。真隈はゴーストレストラン(UBERなど専門の客席のない飲食店)でバイトしていて、パワハラ気味の店長の元でなかなか仕事を覚えられずにいる。このレストランの世界が途中から劇団が稽古している作品世界でもあるということになる。バイトを真隈、店長を工藤、レストランにガパオ6個の注文をピックアップに来たUBER配達員1を結木、真隈たちが頼んだ商品を届けに来たUBER配達員2を矢野が演じている。


まず序盤で稽古場とバイトを往復する真隈が稽古場をバイト先だと思い、その後帰宅しようとするも今度は稽古場を家だと思い込み、稽古場から出られなくなるくだりでゲラゲラ笑った。文章で書くと意味不明だと思うんですが、真隈と金丸のやりとりがめちゃくちゃ面白い。中盤は進まない稽古の様子とレストランでの様子(劇中劇)が交互に描かれる。このあたりは多分話を重くしすぎないためなのか、役者たちがとにかくめちゃくちゃポンコツなので(前説でめちゃくちゃえーって言うし、永久にドアを開ける演技ができないし、壁があるはずのとこから出て行っちゃうし、正しいイントネーションでセリフを言えない)それで笑ってさほど深刻な感じにはならない、というかどっちもどっちだなという印象。


しかし徐々に尾上から結木へのパワハラがひどくなってくる。尾上は自分の頭で考えろ、主体的にやれと言った3秒後に、言われたことだけやればいいからと言い出したり、言ってることがめちゃくちゃだし、ドアを開ける演技の手本を見せてくださいと言われたくだりの動揺など演出面の指導力にも疑問があるが、矢野や工藤は「昔よりは丸くなった」などと言って問題視しない。そして終盤、劇中劇では配達されてきた食事を配達員1がぶちまけてしまい店長に配達員たちが詰められるシーンで、結木の謝罪が謝罪になっていない、と尾上がキレ始め、劇中劇での詰め(ここでの店長がハラスメント主体として尾上と重なる)と稽古場での詰めが同時に生じ、最終的に尾上は結木に土下座を求める。ここで止める真隈の、土下座なんかしたら、手も足も頭もついちゃったら何にもできなくなる、スーパーマンじゃなくなる、というような台詞がすごく良い。(「役者はスーパーマン」はこの前に結木が真隈に語る台詞)ここは便宜上土下座という例を使っているけど、単に土下座という行為というよりも本人がどうしてもやりたくないことをやらせる、という捉え方をしていた(人によって大切なことは違うから、矢野や真隈がすぐ土下座できるからといって結木とどちらが上下ということではないと思う)稽古場を逃げ出す結木とそれを追う工藤、稽古場を出ていく尾上。実は金丸が役者をやめたのは尾上の厳しすぎるダメ出しが原因だということもここまでにわかっていて、自主練用に撮影していた動画を見返そう、そうすればさっきのがどれだけ異常なことだったかわかるはずだ、と言う真隈と、事を荒立てて公演中止になることを避けたいあまり、それぞれのやり方でそれをやめさせようとする劇団員たち。このくだり、ここまでの描かれ方で誰も悪い人間ではないとわかっているからこそ、正しいことを言っている真隈を全員が黙らせようとするのがグロテスクできつい。結局戻ってきた結木も動画を見るのはやめようと言い、そのまま本番が始まる。しかし件のシーンで突然真隈がバイトを退勤して帰宅しガパオを作るアドリブを始める。


ここで電車に揺られるガタンガタン!の勢いに反射的に吹き出してしまって、でもその後真隈がやろうとしていることを理解してビャッと涙が出た。真隈は尾上のぶつけてきた言葉をそのまま使って抵抗している。怒ってアドリブを止めようとする尾上への「そこ壁です」も「上演中です、上演は絶対止めちゃいけないって尾上さん言ってたじゃないですか」(言い回しは曖昧)も。そして主体的に考えて動いている。戦いと呼ぶのはふさわしくないのかもしれないけれど、わたしは戦いだと思った。真隈は他のキャストや金丸や音響も巻き込み、舞台上では作中の現実と地続きな芝居が演じられ、やがて紙吹雪をまきちらして、稽古中に行きたいねなんて話していたけど結局行けなかった花見が始まる。金丸が劇団立ち上げ時の回想を始め、尾上もそこに加わる。ようやくガパオ6個が完成するが、配達員1はもう注文キャンセルしていて、これをお弁当にして花見に行こうと言い、6人のキャストは舞台を去る。ここは中盤でなんで配達員は注文キャンセルしないんですか、と尾上に聞いて怒られていた結木がのびのびと主体的に選択していると感じて良かった。

 

前提として、わたしは現実におけるパワハラは公表されて然るべき処分を受けるべきだと思っているので、これはあくまでもフィクションだ。多分尾上の言い分として店長が真隈に発する「全然仕事(=自分の求めるような演技)できるようにならない」という怒りがあるんだと思うんだけど、どんな怒りがあろうと指導的立場の人間はその権力を自覚したふるまいをしなくてはいけないし、穏やかな言葉で伝える責任がある。何より現実ではこんな解決はできない。でもその前提の上で、最後舞台上に生じる花見のシーンはすごく美しい。ここの照明が暖かい春の日差しみたいにまぶしくて多幸感があってよかったな。ここまでの真隈ってずっと尾上と店長をはじめとした周囲から理不尽なことを言われ続けていて、でもずっと折れたり怒ったりせず穏やかに反論し続けて、最後に舞台上のすべてを味方につけて抵抗するカタルシスがすごい。劇中でも言われている通り、役者はスーパーマン、舞台の上では何でもできるし何にでもなれるという演劇の強みを存分に生かしている。


ラスト、去っていったキャストが2階?の窓から順々に顔を出して挨拶するとき、自分がまだ真隈たちの劇を見ている観客の気持ちでお芝居が続いている感覚だったから咄嗟に拍手できなくて、演者に拍手を送れなかったのが心残りですが、総じておもしろかった。これは全然悪口じゃないんですが、こんなに自分が面白いと感じると予想してなかったから少し驚いた。王子小劇場は何度か行ったことあるけど、全然見やすいと思ったことなくて苦手寄りの劇場でしたが、今回は入口側に舞台をおくことで客席の段差を高くできていた気がするし、あとロビーを舞台の一部として使う演出もよかった(矢野が自販機でコーヒー買うシーンおもしろかったな)あと最近好きな演技とは何かについてよく考えているんですが、現実すぎるのも嘘すぎるのも苦手で、そこの塩梅もちょうどよかったのかも。好きだったのは金丸を演じた三宅もめんさんの優しさと弱さと最後に見せる強さ(あと、とても面白い。海老天のくだりなど)、真隈役竹内蓮さんの、決して完璧ではなく抜けてるところもたくさんあるけど自分が言うべきことは怯えずに言う姿勢や、憎めない愛嬌もよかったな。

あとこれは言い方が難しいのですが、キャスト6人中4人が女性2名が男性なんだけど、こういうギスギスしそうな話にもかかわらず男性陣から嫌な男性性を感じることがまるでなかったのが、令和…って感じした。というかこの作品において性別的な偏重は何も感じない。コロナ関連で最初2日中止になっちゃったらしいんだけど、幕が開いてよかったな。