言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

愛と憎しみはグラデーション

劇団青年座「横濱短篇ホテル」久しぶりの紀伊國屋ホール

 

横浜のある老舗ホテルを舞台に約40年間の出来事を描くオムニバス。高校の演劇部の同級生であるハルコとフミヨというふたりの女性を軸に、各話の登場人物に関係性があり、緩く繋がったストーリーが展開されていく。オムニバスって各話完結だとどうしても集中力が細切れになってしまうし感情移入が難しいんだけど、登場人物が共通していることで思い入れを強めながら観ていくことができて好きだった。マキノさんの作品初めて観たんだけど、他も観たい。


一話で新進気鋭の映画監督・芳崎に見出されたハルコは女優となり、プロ野球選手と結婚するが、三話では夫の側から離婚直前の様子が描かれる。四話でハルコは偶然初恋の人である中学の同級生・大野木と再会し、10年後にまた会おうと約束して別れるが、六話で約束通り再会した大野木は癌で余命わずか、ハルコはそれでも大野木にプロポーズを求め、彼と結婚する。一方シナリオライターを目指すフミヨは二話で知り合った杉浦と結婚するも五話では離婚済み、しかしよりを戻してシナリオライターとしても地位を築き、七話では連ドラの脚本を書きながらハルコの3回目の結婚式に参列するところ。

ハルコとフミヨだけでなく、出てくるすべての登場人物に人生があって、その一部を切り取って見せているという感覚があり、描かれなかった部分についても想像が広がる。笑えてちょっと泣けて、良い舞台観たな!という後味。あと個々の登場人物の描き方に愛が感じられるというか、嫌な人間がいなくて、かといってテンプレでもなくちゃんと個性がある。プロデューサーの長谷川が乱入してきたハルコを面倒がりながらも、高校生相手に決して声を荒げたりはせず、呆れながらも相手をするのとか良かったな。


俳優もみんなうまい。ツアー回ってきた後らしいから更に馴染んでるのかも。特に第五話と七話、横堀さんと津田さんの掛け合いが良すぎたな。間の取り方とか全部、あれが正解って感じがする。他に印象深かったところだと、一話で高校時代のハルコを演じた角田さんがわりと女学生らしいテンション高い演技なのに、監督に演技を見せるシーンになった瞬間ぐっと抑制がきいた演技になったところ(ここで監督に見出されるだけの魅力に説得力がないといけないので大変だと思う)、三話の伊東さんのバリバリ方言(高知?どこだろ)で喋りながらちゃんと客席に伝える力、六話の加門さん演じるコンシェルジュのこらえられない面白さ(何もふざけてないからこそ面白いやつ、あと声がよすぎ)前田さん愛川さんの一見礼儀なってなさそうに見えるけど根は良い子たちだ…というかわいさなど。

バブルやらポケベルやらシノラーファッションやら時代の移り変わりを丁寧に表現してるのが、作品の中で音楽でいうベースみたいな役割を果たしていると感じる。野々村さんのハルコと津田さんのフミヨは七話まで顔を合わせないけど、それぞれ方向性の違う自我のある女性で好感が持てる。あと映画監督の芳崎(小豆畑さん)はハルコと近づいたり離れたりの関係が続きながら、六話で急逝するまでずっと存在感があるのだけど(フミヨはずっと芳崎のことが好き)舞台上には一話と二話の少ししか出てこないのも面白いなと思った。不在の男の影がある。急逝した芳崎の通夜に出た後大野木と再会したハルコの、「好きな人が突然消えちゃうなんで。もう会えないのに、来週くらいにすごく会いたくなっちゃったらどうしよう」というような台詞がとてもよくて、さらにその後大野木にプロポーズされるくだりでは泣かなかったのに、七話で死別が示唆され、カテコでウェディングドレス姿のハルコと大野木が腕を組んで出てきたときに泣いてしまった。

あと横堀さんの演じた杉浦洋介が好きで、一話ではあんまり深く物事を考えてないチャラい若者、という印象なんだけど、五話でフミヨの元夫として再登場したときには、バブルの広告代理店で働く四十代の葛藤や辛さを漂わせ、その後フミヨとよりを戻して、七話ではフミヨを受け止める包容力もかすかに感じさせる(しかし結局ラストは翻弄されてて、それもかわいい…「えっ、えー?!」って困惑してるの超かわいかった)二話の転換中にデートのシミュレーションしてるのも、七話前かな?の手品も(めちゃくちゃ上手い…)よかったな。横堀さんを初めて観たのが「ズベズダ」のコロリョフだったので、180°違う人間すぎて、うまい俳優さんって本当に何にでもなれるんですね…と思った。


セットは客室、ロビー、喫茶室の3種類で、あれ転換は回転してるのかな?その間は各話のモチーフイラストが書かれた板が目隠しに降りてきて、板のどんでん返しの部分を回すと各話のタイトルが出てくる。今の時代なら映像とかでやりそうなもんだけど、アナログなのが逆にいい味出してたな。あと転換の間も次の話に出てくる登場人物が前っ面で演技するから飽きない。


ここからは個人の感想だけど、ハルコと杉浦はちょっと似ていると思う。ふたりとも陽気だしノリがいい。あとふざけて両手で指差す動き(ダンディ板野のゲッツみたいな)をふたりともやっていた気がして、それでも思った。多分フミヨはああ言っているけどハルコのことを心から拒否してはいない(だって本当にそうならとっくに関係を断ち切れる)憎しみが多少なりともあるのは本当だろうけど、フミヨは何だかんだ自分にはない明るさを持つ彼と彼女のことを愛してるんじゃないかなと思う。人間関係って一言で言い切れない感情のグラデーションがあるよな。


青年座、だんだんわかる俳優さんが増えてきて楽しい。須賀田さん(たぶん)からパンフを買った。今年はユース入ろうと思う。主に脚本でハマるハマらないはあるということがわかったけど、多分毎回観に行くし…まず全員演技がしっかりしてる時点で少なくとも安心して観れる。前にこの作品で那須凛さんが高校生ハルコをやったこともあるらしく、それも観たかったなあ。