言語化修行中

観た舞台の感想を書きます。ストプレとダンスが好き。

どこまでならコメディにできるのか

ヨーロッパ企画「九十九龍城」

ヨーロッパ企画は初見。九龍城というモチーフが好きなのと、去年観た「あいつが上手で下手が僕で」が面白かったので観に行った。でも大歳さん別に本公演は関わってなかったんだな(作演が複数いるということをよくわかってなかった)

 

香港の九龍城をモチーフにした(というかほぼそのまま)巨大な違法建築スラム・九十九龍城。ベテラン刑事ヤンと若手刑事リーのコンビは、ある爆破事件の捜査のため遠隔監視システムを用いて九十九龍城を監視することになる。犯罪や不法行為がはびこる無法地帯である九十九龍城には、行方不明になった兄を探してショーパブで働く踊り子のスー、そのショーパブを経営するマフィア、自宅周辺の看板上スペースを宿として貸して家賃を取る大家と、そこで暮らす看板民、喧嘩ばかりの肉屋夫婦、iPhoneのパチモン「パイフォン」を製造する違法業者など様々な人々が暮らす。やがてリーはカメラ越しの監視だけでは飽き足らず自ら九十九龍城に潜入して捜査を始め、この世界に隠された秘密が明らかになっていく。

 

序盤、遠隔監視システムで見ている刑事コンビが住人にナレーションでツッコミを入れていく形で一通り全キャラが登場するくだりが結構長く、この間ずっとテレビのコントを見ているような気持ちで全然入り込めずやや不安だった。リーが現地に潜入してからはその印象は薄れたけど。オープニングの映像も舞台セットの作り込みもすごいから、なおさらそういう印象があるのかな。

最終的には大まかにいうとシミュレーション仮説みたいな話で、九十九龍城のある世界は実はオンラインゲームの世界であり、住人は全員NPCのモブ。兼役を「コスト削減のためにグラフィックを使い回しているから同じ顔のやつがいる」って説明してるの面白い。そして九十九龍城はバグそのものなので、空間が歪んだり壁を抜けられたりする(マフィアはその現象を使って闇の商売をしており、スーの兄は抜けられる壁を探して「壁当たり」の労働に従事していたところ事故で半分壁に埋まってしまっていた)土佐さん演じるジャンキーと思われてた無気力な看板民の男だけがPCで、終盤正体を明かし現れた龍と戦うが、倒した後ゲームの料金未納からログアウトしてしまう。ゲームシステムに不正アクセスしてチートの強さを手に入れたマフィアの男によって皆殺しにされるかと思いきや、男はスライムの大量発生に巻き込まれ死亡、そして運営による強制メンテが入り九十九龍城のバグは修正される。

 

後半ヤン刑事がマフィアと繋がっていて、リーを殺そうとして抜いた銃がカクカクしてる(処理落ちで画素が荒い)ところから、肉屋の肉もいつのまにか画素が荒くなっていて、その前に何気なく聞いていた「チャーシューがすごく四角い」というセリフやその他の諸々が伏線だったとわかったときすごくワクワクした。ただ(コメディなのでそれで良いんでしょうけど)そこから急速にめちゃくちゃ力技の展開になり、PCの彼が全てをセリフで説明していくので、おお…と思いながら見ていた。ラスト、メンテによってバグが修正された世界では、スーの兄は台湾で生きているしマフィアに撃ち殺された人々も生き返る。そしてスーはリーのことを忘れている。そもそも監視システム自体がバグを利用したものだったとすれば、リーが九十九龍城に足を踏み入れたこともバグであり、メンテ修正されて記憶が消えたということなのだろうか。でもそれだとパーカーがリーからイヤホンもらったのを覚えてるのはなぜなんだろうな…というか、そういうことを全部厳密に考える話ではないのかもしれませんが。一個特に謎だったのが、PCの彼はなんでもう特に何もやることがないゲームの世界にずっと残っているのかで、だってゲーマーは飽きたら普通他に行くんじゃない?やりこみすぎて愛着があるみたいなことなのかな…ありがちかもしれないけどログアウトできなくなったみたいな方がしっくりくる気がしたり。

最後キャストクレジット映してる紗幕スクリーンの後ろでNGシーンやるのが映画みたいで面白かった。映画あんまり詳しくないんですが香港映画でよくあるらしい。

監視システムで俯瞰で見ていた世界にリーが入っていって、昨日起きたことを知っているから先回りした対応をして解決していくくだりでは、リーがチート主人公みたいに見えるが、実は彼もモブだったという展開、そして最後リーがモブの力で逆転しよう!みたいなことを叫ぶ流れは綺麗だなと思うんだけど、ここのリーのセリフがふわふわしてて正直あんまり入ってこなかった(ごめん)(まくってくって何回も言ってたのは覚えてる)でもリー役の金丸さんは確かに主人公感がある。あと石田剛太さんがパーカー・パイフォンのブローカー・モグラの3役をそれぞれ個性豊かに演じていて好きだったな。早織さん演じる大家(めちゃくちゃツンデレ)と藤谷さんのスーのやりとりも可愛かった。

決して面白くないわけではない(十分に面白い)んだけど、事前に場面写真で見たセットや宣伝クリエイティブの世界観が好みすぎたのと(舞台装置本当に素敵!)世界の解像度が下がり始めたくだりで不穏さを期待しすぎたため、ちょっと違う方向に期待値を上げすぎたかもしれないという印象。アフタートークとパンフで作演の上田さんが、いじめとかパワハラとかはコメディにするの難しいけど、銃で人を撃つとか人が死ぬとかはやり方次第ではコメディにできるって話してたのが興味深かった。確かに柔道ボーイが落下するくだりもパーカーが撃たれて死ぬくだりも笑い起きてた(個人的にはパーカーが最後にイヤホンを示すのが「映画のお約束な死に方」みたいで笑ってしまったな)確かに戦争だって描き方によってはコメディにできるもんな。

あと自分がコメディ自体そこまで観ない理由として、役者の人となり(および、それを知っているかどうか)が面白さに影響するような印象があるとちょっと違う気がするのかもしれないな、と思った。